第23話

関東事変⑥
2,660
2021/07/22 13:19
幸い死んだのは利き手じゃない左手だし。ナイフは結構使ってたから、慣れてる。


殺しはしない


いやいや、流石にガキの喧嘩で殺しはないでしょ


「っ…!ぐっ…」


私、女子にしては身長ある方だと思うけど、わりと体重軽いんだよね。不健康な生活してるから…?かわかんないけど。だから、骨は脆いかもだけど、自分の体はわりと自由に操れる。


横っ腹に蹴りを入れた後、距離をつめてナイフを首筋にあてる。



「ど?降参する?」


「………はぁ」



「私が本気だったら、もう死んでるからねー」


長身の副総長くんは、長いため息をついてから両手をあげた。



「ま、万太郎が認めてるし。強かったよ?私が今までやって来て……イザナの次くらいには」


「バケモンかよ」


「えー…君には言われたくないかな」



てかさー

副総長同士の喧嘩で決着が決まる訳じゃあないから。うちらはわりと前座的な?やつなんだよね


今、隣でやってるイザナと万太郎に目を向ける。


イザナも万太郎も蹴りが主軸だから。てかさ、あの二人兄弟らしいね。

まさかだった



「万太郎は、元気にしてた?」

「………見りゃ分かるだろ。」

「あはっ、あの子君に迷惑かけてない?」

「迷惑だらけだぞ。我が儘だし、言ったら聞かねぇし」

「だよねー。昔からそんな子だ。圭と喧嘩ばっかりして。何でそんなに喧嘩するのって聞けば、負けらんねぇからとか。馬鹿だねー。今も昔も。」



万太郎……


イザナがずっと言っていた″マイキー″が万太郎であるなら


施設時代にイザナに会いに来ていた真一郎は、私が知っている真一郎だったんだよね。



「あのさ………」

「あ?」

「こんなこと、私が言っていいのかわかんないけど。あの子の妹のこと………止めらんなくてごめんね」


聞いていた

総長の妹は、副総長の女だって


つまり


君の恋人だったってことでしょう



「…………左腕、いってるだろ」

「?うん、たぶん」

「それでいい………お前は」


「………」


パチパチと何度か瞬きを繰り返す。隣に立つこの男は本当に中学生か…




「すごいね……。私ならイザナが誰かに殺されたら、そいつをすぐに殺しに行くけど。」


イザナは誰かに殺されるってことは無さそうだけどな


でも本当にそれが起こったら

容赦はしない

イザナだけじゃなくて、カクでもらんらんでもりんりんでも。モチモチでもチヨちゃんでも。

私の大事な大事な″家族″を誰かが殺したなら


そいつのこととことん追い詰めて。

苦しませながら殺して


それだけでも足りないから、親兄弟にまで手を出すかもしれない。



なのに、何故自分より幼いこの子がそれをしないのだろうか


心では絶対、殺してやりたいはずなのに



「君が万太郎の側にいてくれて良かった」



ありがとうと言えば、彼は少し困ったように笑った。







万太郎……あんたどんだけ彼に迷惑かけてんのよ

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