最後のお客さんを見送ると、私は、店先の暖簾を下ろした。天火さんとの約束の時間まで、あと一時間。時間になるまで、曇家に持っていく和菓子を作ることにした。今度は、宙太郎くんが泣かずに食べれるように、凝ったものはやめておこう。私は、店で一番人気の塩大福をつくることにした。あんこの甘みだけではなく、ほんのり塩が効いている家の大福は、絶品らしい。
塩大福を作る前に、私は明日に売る和菓子を作っていたが、頭の中では塩大福の作り方でいっぱいだった。和菓子を作りたての頃は、一つ一つ作り上げるのに時間がかかっていたが、今では作業もテキパキとこなしていて、綺麗な仕上がりで和菓子を作ることが出来ている。
時間まで、まだ全然余裕なはずなのに私はいつもの倍の速さで和菓子を作った。早く曇家に行きたい気持ちが強かったのか…もしくは…。この時の私には、分からない感情がある人に芽生えていたかもしれないと思うんだ。
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そう呟くと、宙太郎は俺の部屋を出ていった。あぁ…悪いことしちまったなぁ…(汗)まぁ、あの宙太郎だから大丈夫だろうが…後で謝りに行くか。
白子はクスクスと笑っていたが、俺にとって、本当に嬉しかった。(返事を待たずに強制的に誘ったが)あなたは、おやじとおふくろを亡くしてから元気がなかった。余計なお世話かもしれないし、あなたにとって迷惑かもしれない。けど、あいつの悲しむ顔だけは見たくなかったんだ。前に見せてくれたあの笑顔で笑っていて欲しい。悲しみを乗り越えて前を向いて欲しい。けど…出来ることなら…俺の側で…。
俺がニカッと笑っても、白子は何を言っているのか分からないようで首を傾げるだけだった。俺の身勝手な気持ちで、あなたを困らせたくねぇからな。今は、手を引いとくか。ま、誰かにとられないように見張るぐらいは許してくれ!
食堂から響いた、空丸の辛辣な言葉に後押しされ門を出た。いつも上り降りしてる階段をこんなに軽快に降りてる自分に笑いがでた。待ってろよ、あなた!
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水&金に更新していきます!
よろしくお願いします!
by桐生
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。