そう言われてしまえば、これ以上 遠慮するのもまた違う気がして。
***
あくる日の朝。
ドアの向こうからオリバーさんの声。
まだベッドの中にいたアラン様は、それを聞くと、分かりやすくため息をひとつ。
⋯⋯エマ様って誰だろう?
そんな疑問が私の頭をよぎったとき、アラン様は一言「幼なじみだ」と言って、起き上がった。
声に出して聞いたわけでもないのに、またバレてしまった。
前にもアラン様から、思っていることが顔に出るといわれたことがあるけれど、私ってそんなに分かりやすい生き物なのだろうか。
……エマ様って名前からして女の人だ。
もしかしたら、アラン様の……。
それだけドアの向こうに投げかけて、私の用意した着替えに腕を通すアラン様。
……部屋?
さっきから、よく分からないことばかりだけれど、世話役の私がいちいち気にするのも変な話……だよね。
***
アラン様に連れられて入ったのは、ピンクを基調とした可愛らしい部屋。
エマと呼ばれたのは、可愛らしい女の子だった。
豪華なドレスを身にまとい、胸まである茶色い綺麗な髪はゆるく巻かれている。
幼なじみと聞いて、アラン様には仲の良い兄妹のような相手がいるんだと勝手に思っていたけれど、目の前の2人は……どちらかと言えば犬猿の仲。
”ああ言えばこう言う”そんな言葉がピッタリ。
……エマ様は私と同い年なんだ。
だけど、キラキラしていて、可愛らしいエマ様は、私とはまるで別世界の人に思える。
アラン様の紹介に続いて、慌てて深々と頭を下げる。
そう言いながら、エマ様はべーっと舌を出して見せた。アラン様の幼なじみというからにはそれなりの身分の方なんだろうけど、気取っていなくて、ちょっとお転婆で、親しみやすそうな雰囲気だった。
私の頭を小さく撫でて、部屋を出ていくアラン様。これも”いつものこと”になりつつある。
アラン様が完全に部屋を出たのを見計らって、エマ様が小さく私を呼んだ。
───ドクン。
ポロッとエマ様の口から零れた言葉に、私の心臓が大きく波打つ。
……アラン様ってば、”幼なじみ”としか教えてくれなかったくせに。こんな可愛らしい婚約者がいたなんて……。
エマ様は裏表のない笑顔で微笑んで、”任せて”なんておどけて見せる。
私なんかが……って思うのに、アラン様に婚約者がいると知ってザワつく胸に嘘は付けなくて。
”ソフィアのこと応援するよ”
その言葉が、今はやけに嬉しかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。