ふわりと微笑んだエマ様は、今日も相変わらずの可愛さだ。
例えるなら、エマ様が歩いた道の上に色とりどりのお花が咲いちゃうような、そんな可憐な愛らしさを放っている。
嬉しそうにそれだけ告げて、一足先に部屋に向かってしまったエマ様を見ながら、小さく笑みがこぼれる。
エマ様は、女の私から見ても飾らない愛らしさのある人だ。
***
"買えてよかった〜”とクッキーを頬張るエマ様。
わざわざ私とお茶するために買ってきてくれたんたと思ったら、エマ様の気持ちが嬉しくて、クッキーの美味しさも増したような気がした。
伝えたい気持ちと、隠したい気持ちが交差する。
もし伝えて、専属世話役として傍にいることができなくなったら……そう思うと怖い。
だけど、自分の気持ちに正直でいたい。
そんな思いも確かにあって。
切なげに揺れる瞳。
"好きな人に好きって伝えられる距離にいるなんて、私は羨ましいよ"
そんなエマ様の言葉を思い出して、胸が切なく軋む。
エマ様なりに精一杯私の背中を押してくれているんだろうと思うと、なんだか元気が出て、こうしてお茶する前より前向きな自分と出会えたような気がした。
***
エマ様を見送って、夕飯作りのため厨房へと向かう途中。
いつもなら閉まっているオリバーさんの部屋のドアが、全開になっているのが目に留まった。
部屋に入るときも出るときも、必ずしっかりドアを閉める几帳面なオリバーさんなのに。
不思議に思いつつ数歩近づいたとき、中から声が聞こえて、咄嗟にドアの陰に隠れてしまった。
アラン様の⋯結婚……。
オリバーさんと、アラン様の側近の方たち数名の会話は、私の心に大きな雨雲を連れてきた。
やっぱり、どんなに足掻いても、私とアラン様じゃ住む世界が違いすぎるんだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!