もちろん、動揺していないわけじゃない。
”アラン様のご結婚”という知らせを聞いて、冷静でいられるほど、私はできた人間じゃない。
だけど、アラン様の口から告げられた言葉を私は信じている。
ルイの言っていることはよく分かる。
……だけど、私だって半端な気持ちでアラン様を想っているわけじゃない。
───コンコンコン!
ルイの言葉の途中で、勢いよくドアを叩く音。
ドロシーおばあちゃんがドアを開けたのとほぼ同時に、飛び込んできた人物を見て、私とルイは顔を見合わせた。
***
飛び込んできたエマ様の”おばあさま”という言葉に驚いたのは、多分、私だけじゃない。
隣で目を見開いたルイも同じくらい驚いただろう。
エマ様のお母様が北部出身だとは聞いていたけれど、まさかドロシーおばあちゃんがエマ様の実のおばあさまだったなんて。
オレンジティーの爽やかな香りが鼻を掠める中、
私が留守にしていた間の城での動き、そしてエマ様がここへ来た理由をエマ様の口から聞いて、全てを理解した今なら分かる。
” 俺も片づけたい問題があるからちょうどいい。
3日後、また迎えに来る。”
あの日の言葉の意味。
……アラン様は今、自分を失脚させようと目論むヤツらと1人で戦っているんだろうか。
アラン様へと思いを馳せている間に、エマ様がルイへと向き直った。
ルイの前ではにかんでいるエマ様はいつもより丁寧な言葉遣いに、綺麗な立ち居振る舞い。
貴族の令嬢にふさわしいその仕草は、彼女をよりいっそう美しく見せていた。
それにしても、前に言っていたエマ様の好きな人が……まさかルイだったなんて。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。