厨房まで一緒に来てくれたオリバーさんの前に、手作りのタルタルソースが入った瓶を差し出す。
使ったピクルスはアラン様と城下町を歩いている時に見つけたもので、南部ではけっこう人気があるらしい。
デカデカと【売れてます!】と札がついていたので、思わず買ってしまった。
スプーンに1口分乗せて、オリバーさんへと差し出せば、何やらオリバーさんは難しい顔で考え込んでいる。
意を決したように、オリバーさんが口を開けたとき、
厨房の入口からアラン様の声がして、スプーンを手にしたまま振り返った。
アラン様が前に家を訪ねて来た時に言ってた『抜け出すのに時間がかかった』というのは、オリバーさんに見つからないようにお城を抜け出すことを意味していたのかもしれない。
アラン様は、オリバーさんの質問を軽く流すと、私の持っているスプーンをパクリと口に入れた。
私の手からスプーンを奪うと、アラン様はオリバーさんに差し出した。
それはどういう意味?
聞きたいのに、上手く声が出せないまま。
「じゃあ、また後で」と私の頭を軽く撫でたアラン様は、私とオリバーさんを残し、厨房から出て行ってしまった。
***
───数時間後。
アラン様に夕食をお出しして、後片付けを終える。
やっと一日の仕事に終わりが見えてきたところで、再度お部屋を訪ねると、小さな箱を差し出された。
恐る恐る箱を開ければ、そこには可愛らしい耳飾りが並んでいた。
透き通った宝石の中に、まるで春のように淡いピンク色の花びらが閉じ込められていて、その先では小さな真珠が揺れている。
国王であるアラン様から装飾品を贈ってもらうなんて……。
勘違いしてしまいそうになる。
アラン様に対するこのドキドキが、恋心かもしれないと気付いてしまったから。
だけど私は、北部出身で。
どんなに近くにいても庶民と国王で。
アラン様は私なんかが好きになっていい人ではない。
その事実にも気付いてしまった。
心臓が、止まるかと思った。
抑えきれずに溢れ出した気持ちは、出口を見つけられないまま、心の奥底で渋滞していく。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。