第10話

気づかないフリ
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2021/09/12 09:00
ソフィア
ソフィア
オリバーさん、今、
初めて私の名前を呼んで下さいましたね!
オリバー
オリバー
……っ!
ソフィア
ソフィア
ちょっと、距離が縮まった気がして
勝手に嬉しくなっちゃいました
オリバー
オリバー
 ……陛下が、なぜソフィアさんを
傍に置くのか分かった気がする
ソフィア
ソフィア
え?
オリバー
オリバー
……いや、なんでも
ソフィア
ソフィア
あ……!そうだ、オリバーさんに
味見をお願いしたかったんです
オリバー
オリバー
味見?
ソフィア
ソフィア
北部の鶏舎から送ってもらった卵と城下町の市場で仕入れたピクルスを使って、タルタルソースを作ったんです
厨房まで一緒に来てくれたオリバーさんの前に、手作りのタルタルソースが入った瓶を差し出す。

使ったピクルスはアラン様と城下町を歩いている時に見つけたもので、南部ではけっこう人気があるらしい。

デカデカと【売れてます!】と札がついていたので、思わず買ってしまった。
オリバー
オリバー
南北の品を組み合わせた、
というわけですか……
ソフィア
ソフィア
これなんですけど……!
はい、
オリバー
オリバー
はいって……
それは、口を開けろと?
ソフィア
ソフィア
……?はい、味見を
スプーンに1口分乗せて、オリバーさんへと差し出せば、何やらオリバーさんは難しい顔で考え込んでいる。
ソフィア
ソフィア
もしかして、苦手でしたか?
オリバー
オリバー
……いえ、いただきます
意を決したように、オリバーさんが口を開けたとき、
アラン
アラン
へぇ、俺の留守中に随分仲良くなったな?
オリバー
オリバー
───!
ソフィア
ソフィア
……あ、アラン様!
おかえりなさい
厨房の入口からアラン様の声がして、スプーンを手にしたまま振り返った。
アラン
アラン
オリバーが心を開くなんて、
さすがソフィアだな
オリバー
オリバー
陛下、お迎えにもあがらず、
申し訳ございません。
ソフィア
ソフィア
今、オリバーさんに
タルタルソースを味見してもらおうと
アラン
アラン
タルタルソース?
ソフィア
ソフィア
はい!北部の採れたて卵と
南部の大人気ピクルスで作ってみました!
アラン
アラン
なるほど。
城下町で買った例のピクルスか
オリバー
オリバー
……まさか、
またお忍びで城下へ行かれたんですか
アラン
アラン
……さぁ?どうだったかな?
アラン様が前に家を訪ねて来た時に言ってた『抜け出すのに時間がかかった』というのは、オリバーさんに見つからないようにお城を抜け出すことを意味していたのかもしれない。

アラン様は、オリバーさんの質問を軽く流すと、私の持っているスプーンをパクリと口に入れた。
ソフィア
ソフィア
……ど、どうですか?
アラン
アラン
ん、んまい!
玉ねぎとレモンの風味が卵の味を際立て、
ピクルスの酸味をやわらげている。
これはサッパリしていていくらでも食えそうだ
ソフィア
ソフィア
……ほんとですか!良かった。
こんな風に、南北は
お互いの良さを引き立てあえる。
それを表現したくて
アラン
アラン
オリバーも食ってみろ
私の手からスプーンを奪うと、アラン様はオリバーさんに差し出した。
アラン
アラン
ソフィアの手から食っていいのは
俺だけだってことも覚えておけよ
オリバー
オリバー
……御意
アラン
アラン
ソフィア
ソフィア
ソフィア
は、はい
アラン
アラン
渡したい物がある。
手が空いたら部屋まで来てくれ
ソフィア
ソフィア
……分かりました!
アラン
アラン
それから、
ソフィア
ソフィア
……?
アラン
アラン
ソフィアは俺だけ見ていればいい。
他は構うな
ソフィア
ソフィア
……えっ、
それはどういう意味?
聞きたいのに、上手く声が出せないまま。

「じゃあ、また後で」と私の頭を軽く撫でたアラン様は、私とオリバーさんを残し、厨房から出て行ってしまった。
***

───数時間後。

アラン様に夕食をお出しして、後片付けを終える。
やっと一日の仕事に終わりが見えてきたところで、再度お部屋を訪ねると、小さな箱を差し出された。

恐る恐る箱を開ければ、そこには可愛らしい耳飾りが並んでいた。
ソフィア
ソフィア
綺麗……
透き通った宝石の中に、まるで春のように淡いピンク色の花びらが閉じ込められていて、その先では小さな真珠が揺れている。
アラン
アラン
隣国の土産だ。
ソフィアに似合いそうだったから、
思わず買ってしまった
ソフィア
ソフィア
そ……そんな!
こんな綺麗なもの、私には
ソフィア
ソフィア
それに、
アラン
アラン
……それに?
国王であるアラン様から装飾品を贈ってもらうなんて……。

勘違いしてしまいそうになる。
アラン様に対するこのドキドキが、恋心かもしれないと気付いてしまったから。

だけど私は、北部出身で。
どんなに近くにいても庶民と国王で。
アラン様は私なんかが好きになっていい人ではない。

その事実にも気付いてしまった。
ソフィア
ソフィア
私は、ただのお世話役です……
国王様からこのような物を頂くなんて
アラン
アラン
なんだ、そんなことか
ソフィア
ソフィア
……え?
アラン
アラン
ただの世話役だなんて
1度も思ったことはない
アラン
アラン
お前は、俺の意思で初めて
傍にいて欲しいと思った女だ
ソフィア
ソフィア
……っ、
心臓が、止まるかと思った。

抑えきれずに溢れ出した気持ちは、出口を見つけられないまま、心の奥底で渋滞していく。

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