高熱を出したドロシーおばあちゃんの火照った身体を冷ますべく、冷水で濡らしたタオルを絞っておでこに乗せる。
私の言葉に小さく頷いて、ドロシーおばあちゃんは目を閉じた。さっきより顔色は良いみたい。
私がいることで少しでも安心してくれていたらいいな。
そんなことを考える私の脳裏を、さっきのルイの言葉が過ぎる。途端、うるさくなる心臓。⋯⋯あれって、どういう意味の"好き"なんだろう。
だって、相手は小さなころから兄妹のように育ってきたあのルイ....だよ。私自身、ルイのことは兄のように慕って来たし、今もそう思っている。
……だけど、ルイのあの慌て方。それに、
"って、ここで誤魔化しても仕方ないが"
ルイのあの言葉は、間違いなく、妹に対する"好き"ではないと、すぐに察しがついた。
無意識的に声に出してしまったせいで、耳に届いた自分の声にまた良く分からない恥ずかしさが襲ってくる。
勘違いであってくれたら、そう思う自分と、ルイの気持ちを勘違いなんかにしてはいけないと思う自分が、私の中で静かに攻防を繰り広げていく。
最初に見つけたときは、すっかり弱っていて驚いたけれど、やっといつもの茶目っ気たっぷりなドロシーおばあちゃんが戻ってきてホッとする。
ゆっくりとドロシーおばあちゃんが体を起こすのを手伝い、スプーンに一口分すくったミルク粥を口元へ運ぶ。
それをパクリと食べたドロシーおばあちゃんは、"おいしい"と優しく笑ってくれた。
ドロシーおばあちゃんの言う、"そうなってくれたら"は、私とルイが"恋人になってくれたら"あるいは"結婚してくれたら"という意味なのは、深く聞かなくたって理解できた。
”そんな幼なじみがいるって、素敵よね"と笑うドロシーおばあちゃんに、"そうだね”と笑いながら、私の心は複雑に揺れていた。
***
───夜。
アラン様、ちゃんとご飯食べたかな⋯?
急に仕事投げ出して、怒ってないかな。
ドロシーおばあちゃんが眠った後、家の外で一人、夜空を見上げながら想うのはアラン様のこと。
今朝、アラン様はお仕事で早い時間から城を出ていたので、会えないまま北部へ来てしまった。
そのせいか、もうずいぶん長いこと会っていない気がする。
ドロシーおばあちゃんが私とルイが結ばれることを望んでいたなんて、考えもしなかったけど。
前向きに……か。ルイのことは確かに好きだけど、それは"兄"として。
こうして会えない夜に募っていくのは、
やっぱり、この国の若き国王様への想い。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。