第16話

会えない夜に
3,826
2021/10/24 09:00
高熱を出したドロシーおばあちゃんの火照った身体を冷ますべく、冷水で濡らしたタオルを絞っておでこに乗せる。
ドロシー
……悪いね、ソフィア
ソフィア
ソフィア
ううん!私が心配でそばにいたいの。
私がそばにいるから、
ゆっくり休んで早く治してね
私の言葉に小さく頷いて、ドロシーおばあちゃんは目を閉じた。さっきより顔色は良いみたい。
私がいることで少しでも安心してくれていたらいいな。

そんなことを考える私の脳裏を、さっきのルイの言葉が過ぎる。途端、うるさくなる心臓。⋯⋯あれって、どういう意味の"好き"なんだろう。

だって、相手は小さなころから兄妹のように育ってきたあのルイ....だよ。私自身、ルイのことは兄のように慕って来たし、今もそう思っている。

……だけど、ルイのあの慌て方。それに、
"って、ここで誤魔化しても仕方ないが"
ルイのあの言葉は、間違いなく、妹に対する"好き"ではないと、すぐに察しがついた。
ソフィア
ソフィア
……ルイが私を、好き
無意識的に声に出してしまったせいで、耳に届いた自分の声にまた良く分からない恥ずかしさが襲ってくる。

勘違いであってくれたら、そう思う自分と、ルイの気持ちを勘違いなんかにしてはいけないと思う自分が、私の中で静かに攻防を繰り広げていく。
ソフィア
ソフィア
ドロシーおばあちゃん、具合はどう?
おかゆを作ってみたの、食べられるかな?
ドロシー
寒気も取れたし、
体も幾分楽になったわ。
今なら沢山食べられそう
最初に見つけたときは、すっかり弱っていて驚いたけれど、やっといつもの茶目っ気たっぷりなドロシーおばあちゃんが戻ってきてホッとする。
ソフィア
ソフィア
温かくして、沢山食べて、
しっかり身体を休めなきゃね
ゆっくりとドロシーおばあちゃんが体を起こすのを手伝い、スプーンに一口分すくったミルク粥を口元へ運ぶ。

それをパクリと食べたドロシーおばあちゃんは、"おいしい"と優しく笑ってくれた。
ドロシー
昔はよく、
私がソフィアやルイの看病をしたわね〜
ソフィア
ソフィア
そうだね、
風邪を引いたときに作ってくれる
ドロシーおばあちゃんのミルク粥が大好き
ドロシー
ルイは特に甘えん坊でね。
夜もこっそり家を抜け出して
泊まりに来たりしていたわ
ソフィア
ソフィア
ルイはおばあちゃん子だったもんね
ドロシー
ルイもソフィアも
私の本当の孫ではないけれど、
本当の孫のように思ってるわ。
だから、ルイとソフィアがもし、
"そうなって"くれたら私はとても嬉しい
ソフィア
ソフィア
…… ドロシーおばあちゃん
ドロシー
ルイのこと、
前向きに考えてみたらどう?
ドロシーおばあちゃんの言う、"そうなってくれたら"は、私とルイが"恋人になってくれたら"あるいは"結婚してくれたら"という意味なのは、深く聞かなくたって理解できた。
ドロシー
ルイとソフィアは小さいころから
とっても仲良しだったし、
ルイの方が少し年上なこともあって、
いざって時には頼りになるだろうし、
何よりお互いのことをよく知っているでしょう?
ソフィア
ソフィア
……うん
ドロシー
二人なら苦しい時は助け合って、
楽しい時は分かち合って生きていける。
私は昔からずーっとそう思っていたわ
”そんな幼なじみがいるって、素敵よね"と笑うドロシーおばあちゃんに、"そうだね”と笑いながら、私の心は複雑に揺れていた。
***

───夜。

アラン様、ちゃんとご飯食べたかな⋯?
急に仕事投げ出して、怒ってないかな。
ドロシーおばあちゃんが眠った後、家の外で一人、夜空を見上げながら想うのはアラン様のこと。

今朝、アラン様はお仕事で早い時間から城を出ていたので、会えないまま北部へ来てしまった。
そのせいか、もうずいぶん長いこと会っていない気がする。

ドロシーおばあちゃんが私とルイが結ばれることを望んでいたなんて、考えもしなかったけど。
前向きに……か。ルイのことは確かに好きだけど、それは"兄"として。

こうして会えない夜に募っていくのは、
ソフィア
ソフィア
アラン様⋯⋯
やっぱり、この国の若き国王様への想い。

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