翌朝、空は快晴。
まさに木登り日和。
隣で気合いたっぷりのアランさんは、相変わらず高そうな南部の衣服を身にまとったまま。
動きづらそうったらない。そんな格好で、本当に木登りなんてできるのかな?
"ほら!"と、軽くワンピースの裾をめくって見せれば、アランさんから「フッ」と呆れたような笑いが聞こえた気がした。
***
とはいえ、果物を採るための木登りだけでなく、やらなければならない仕事は沢山ある。
裏庭の花壇の雑草を抜いたり、水をやったり、
それから食べ頃の果物や野菜の収穫。
どれも低い姿勢で作業するものばかりで、なかなか骨の折れる仕事だけど、私にとってはそれがまた楽しい。
なんて言いながら、すっかり息が上がっているアランさんに思わず笑みが零れる。
***
アランさんと2人、収穫カゴを背負って、いざ!木登り!というところで、後ろから聞こえた複数の声に振り向いた。
そこにいたのは、同じ町に暮らす顔なじみの人たち。
いつもならこうして都合がつくと、私の仕事を手伝いに来てくれるみんなの優しさに心が温まるところだけど……。
今日は、ちょっとだけハラハラ。
やっぱり……。
北部のみんなは"南部"という言葉に反応して顔を顰めてしまった。
無理もない。北部と南部は仲が悪い。
それは、私だってよく知っている。
だけど、アランさんは悪い人じゃないってことも私は知っている。
それを北部のみんなに伝えるにはどうすればいいんだろう?
***
───数時間後。
私の心配とは裏腹に、アランさんはとても楽しそうに北部を駆け回っていた。
なんにでも興味を持って挑戦し、最初は苦戦していた木登りも、コツを掴んだのか今では軽々と登っている。
綺麗な顔が汚れても、綺麗な服が汚れても、全く気にせず楽しむ姿に、最初は警戒していた北部のみんなも、少しずつ心を開き始めた。
もしかしたら、アランさんのような人なら、長く仲違いしている"北部と南部の壁"を壊せるのかもしれない。
なんて、思っていた時、
突然、響き渡った声。
悪びれる様子のないアランさんに、オリバーと呼ばれた男は眉間に皺を寄せた。
……って、それより、
ア、アランさんが……国王陛下!?
咄嗟に頭を下げようする私よりも俊敏な動きで、私の前に跪くアランさん──いえ、アラン様。
そのまま彼はゆっくりと私の手を取り、
驚く私なんてお構いなしに、やわらかく微笑んだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。