第3話

国王様
8,320
2021/07/25 09:00
翌朝、空は快晴。
まさに木登り日和。
ソフィア
ソフィア
アランさん……、
本当にその格好で木登りを?
隣で気合いたっぷりのアランさんは、相変わらず高そうな南部の衣服を身にまとったまま。

動きづらそうったらない。そんな格好で、本当に木登りなんてできるのかな?
アラン
アラン
あぁ、問題ない。
乗馬の練習だってこの格好だ
ソフィア
ソフィア
乗馬の、練習……?
アラン
アラン
それより、ソフィアこそ
まさかワンピースで木登りするのか?
ソフィア
ソフィア
一見、ワンピースに見えるけど
中にシフォンパンツを履いてるので
私も問題ありませんよ
"ほら!"と、軽くワンピースの裾をめくって見せれば、アランさんから「フッ」と呆れたような笑いが聞こえた気がした。
***

とはいえ、果物を採るための木登りだけでなく、やらなければならない仕事は沢山ある。

裏庭の花壇の雑草を抜いたり、水をやったり、

それから食べ頃の果物や野菜の収穫。

どれも低い姿勢で作業するものばかりで、なかなか骨の折れる仕事だけど、私にとってはそれがまた楽しい。
アラン
アラン
っ、木登りだけじゃないんだな……
ソフィア
ソフィア
すみません、手伝わせてしまって!
アラン
アラン
いや、最近は運動不足だったから
おかげでいい運動になった……
なんて言いながら、すっかり息が上がっているアランさんに思わず笑みが零れる。
ソフィア
ソフィア
さ!次はお待ちかねの木登りですよ!
***
北部の人々
ソフィア〜
アランさんと2人、収穫カゴを背負って、いざ!木登り!というところで、後ろから聞こえた複数の声に振り向いた。
北部の人々
天気が良いから
じぃちゃんに店番任せて手伝いに来た
北部の人々
うちは今日店が休みだから
そこにいたのは、同じ町に暮らす顔なじみの人たち。
ソフィア
ソフィア
ありがとう、みんな!
ソフィア
ソフィア
……あ、今日はもう1人、
一緒に木登りをしてくれる方がいるの!
いつもならこうして都合がつくと、私の仕事を手伝いに来てくれるみんなの優しさに心が温まるところだけど……。

今日は、ちょっとだけハラハラ。
アラン
アラン
南部から来た、アランだ。
よろしく
北部の人々
……南部の人間だと?
やっぱり……。
北部のみんなは"南部"という言葉に反応して顔を顰めてしまった。

無理もない。北部と南部は仲が悪い。
それは、私だってよく知っている。

だけど、アランさんは悪い人じゃないってことも私は知っている。

それを北部のみんなに伝えるにはどうすればいいんだろう?
***

───数時間後。
北部の人々
アランさん!
ほら、見てみぃ!でっけぇ魚だ
アラン
アラン
ハハッ、こいつはすごい!
こんなのが釣れるなんて驚きだ……
俺にもやらせてくれ
北部の人々
アランさん、筋がいいな!
木にも軽々登っちゃうし
アラン
アラン
自分でも驚くほど、
北部は俺の好奇心を掻き立てる。
知りたい!やりたい!そう感じる
私の心配とは裏腹に、アランさんはとても楽しそうに北部を駆け回っていた。

なんにでも興味を持って挑戦し、最初は苦戦していた木登りも、コツを掴んだのか今では軽々と登っている。

綺麗な顔が汚れても、綺麗な服が汚れても、全く気にせず楽しむ姿に、最初は警戒していた北部のみんなも、少しずつ心を開き始めた。
ソフィア
ソフィア
……アランさん、すごい
もしかしたら、アランさんのような人なら、長く仲違いしている"北部と南部の壁"を壊せるのかもしれない。

なんて、思っていた時、
オリバー
オリバー
陛下!
突然、響き渡った声。
ソフィア
ソフィア
……陛下?
オリバー
オリバー
こんなところにいましたか。
探しましたよ
アラン
アラン
なんだ、もう見つかったか。
さすがオリバー、できる男だ
悪びれる様子のないアランさんに、オリバーと呼ばれた男は眉間に皺を寄せた。

……って、それより、
ソフィア
ソフィア
あ、あの……陛下って
オリバー
オリバー
このお方は、アヌザ国の国王陛下
オリバー
オリバー
私は陛下の側近を務めるオリバーです
ソフィア
ソフィア
───!?
北部の人々
こ、国王陛下……っ
ア、アランさんが……国王陛下!?

咄嗟に頭を下げようする私よりも俊敏な動きで、私の前に跪くアランさん──いえ、アラン様。
ソフィア
ソフィア
な、何して……
そのまま彼はゆっくりと私の手を取り、
アラン
アラン
決めた!
アラン
アラン
ソフィア、俺と一緒に来い
驚く私なんてお構いなしに、やわらかく微笑んだ。

プリ小説オーディオドラマ