前の話
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誰もいない。
ただただ白い壁と、小さな窓。
そしてぽつんとある、白いドア。
銀色に光る金属製のドアノブだけが、この部屋にある唯一の異色だった。
何故か普段のトーンで話してはいけないような気がして、小声で呟いた。
響きもしない、無の空間。
周りを見渡せば、自分の横たわっていたベッドとその横に置かれたキャビネット。
部屋の角には引き出し付きの机と椅子。
そのどれもが、白で統一されていた。
出られなかったら。
そんな不安が頭をよぎる。
でもそんな不安はノブに手をかけた瞬間、吹き去った。
ガチャリ
通路のようなところに出た。
やっぱり白い。
そして、
玲緒の部屋の両隣と向かいに、同じドアがあった。
1人じゃない。それだけでも、大きな安心感だった。
自分の来た理由を思い出そうと、記憶を漁った時
親がいたのか。友達はいたのか。家はあったのか。
なにも、なにも、思い出せない。
勿論
ここにいる理由すらも。
覚えているのは自分の名前。早河玲緒。
年齢も誕生日も覚えていない。
もう一度部屋に戻った。
ふと、置かれた机に目がいって、椅子に座ってみた。
机の天板の下につけられた引き出しを引くと、中にはノートとシャープペンシル。
パサッ…
ノートを開いて、シャープペンシルを握る。
今日が何日かも分からないけれど、とにかく「一日目」と書き込んだ。
文字がかけることに安堵して、日記のように書き続けた。
電気が通っているのかどうかも分からない。
自分の部屋に入る明かりは、窓から差し込む日光と月光のみだ、と玲緒は思った。
そっと呟いた玲緒は、再びベッドに潜り込んだ。
不思議と瞼が重くなって、
ストンと眠りについた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。