第7話

7.遠距離すぎる恋の行方
692
2019/09/12 04:09
今度の縁結びのターゲットはこの世を去ってしまった恋人たち。
斜め上をいく縁結び案件に私も鷹見リョウトもどうすればいいのか悩んでしまう。
倉敷アヤカ
倉敷アヤカ
こんばんは
覚悟を決めた私は、ベンチに座っている男と女に声をかけた。
彼らは一瞬驚いていたが視える人間に出会えたことを喜んでくれたのか、にっこりと笑いかけてくる。
どちらも死人にしてはきれいな姿をしており、この世に怨恨を残している様子はなく穏やかだ。
女の霊
私のことが視えるの? 嬉しい
男の霊
僕が視えるんだね。ありがたい
男女の霊はほぼ同時に発言してくるため会話をするのは大変そうだった。どちらも私には反応を示すものの、霊同士でのやり取りは一切ない。
この2体の霊はやはりお互いの存在に全く気付けていないのだ。
倉敷アヤカ
倉敷アヤカ
ずっとここにいるんですか?
女の霊
大切な人を待っているの。だけどいつまでたっても来てくれない
男の霊
彼女と離れてしまう前にここで会う約束をしていたんだ。だけど来てくれない
女の霊
どうして来てくれないのかしら。もう何度季節が変わったのかもわからない
男の霊
彼女に指輪を渡したかった。だけどもう叶わない願いだ
困った。男女の霊はお互いに待ち続けている。すぐそばにいるのに気づくことすらできないなんて。
 
倉敷アヤカ
倉敷アヤカ
(なんか切ない)
男の霊
少し昔話をしてもいいかな?
女の霊
私の話、聞いてくれる?
倉敷アヤカ
倉敷アヤカ
どうぞ
男の霊
僕には彼女がいたんだ。中学の頃からずっと付き合っていたんだけど、大学受験で離れることになった。彼女は地元に残り、僕は都会の大学に行くことになってね
女の霊
5年間付き合っていた彼と大学受験で別れることになったの。離れて付き合っていく自信がなくて私は泣いてばかりいた
男の霊
彼女はよく笑う人だったのに泣いてばかりいるようになった。一緒にいるのがつらくなったよ。それでも別れたくなかったから離れる前にきちんと話をしようと思ってここで待ち合わせをしたんだ
女の霊
泣いてばかりいる私を見て彼はいつも困ったように笑っていた。きちんと話をしたいっていうからここで待ち合わせをしたのに
男の霊
約束の日、僕は死んでしまった
女の霊
その日に私の人生は終わってしまった
私は二人の話を聞いて胸が締め付けられた。何万分の一か。何十万分の一か。
どの程度の確率だったのかはわからないけど、この二人は約束の日にどちらもこの世を去ってしまったが、約束していたからこの場にやってきた。

お互いに亡くなっているということも知らずに、いつか待ち人が来るかもしれないと思いながら。

私は鷹見リョウトの腕をつかみ、彼の瞳をじっと見つめた。
倉敷アヤカ
倉敷アヤカ
鷹見くん、身体貸してくれる?
誰かに懇願するのはいつ以来だろう。私は鷹見リョウトに会えなくなってしまった男女のために身体を貸してほしいと懇願した。
 
鷹見リョウト
鷹見リョウト
自由に使ってくれて構わないよ。どうせ運命共同体だしね
危険なことを頼んでいるのに鷹見リョウトが明るく笑うものだから、私もつられて笑っていた。

私は男女の霊に向き直り
倉敷アヤカ
倉敷アヤカ
あなた達の大切な人はすぐとなりにいます
と真実を告げた。
女の霊
信じられない
男の霊
気休めはよしてくれ。ずっと待っている。でも彼女は来ないんだ
倉敷アヤカ
倉敷アヤカ
私たちの身体を貸します。ちゃんと会って伝えたい事を伝えてください
鷹見リョウト
鷹見リョウト
ほら、早く来いよ
私は鷹見リョウトの手をとり、男女の霊体と身体が重なりあうよう一緒にベンチに座った。
ひやりと冷たいものが一気に身体へ流れ込んでくる。女の霊が私の中にはいったのだ。
鷹見リョウトは身震いをひとつした。おそらく彼の中にも男の霊が入りこんでいる。
女の霊
ああ……本当にそばにいたのね。もう会えないと思っていたのに
男の霊
っ!
じわりと胸の奥が温かくなった。頬を伝い落ちてくる涙まで温かい。
私の手が鷹見リョウトの顔に触れた。鷹見リョウトの腕が背中に回されしっかりと抱きしめられる。

これは私と鷹見リョウトの意思で行われている動作ではない。今、私たちの身体を使っているのは男と女の霊だ。
男の霊
あの日、指輪を渡したかったんだ。死んでしまったからもう叶わないけど
女の霊
そう……私も死んでしまったの。でも今はこうして身体があるわ
倉敷アヤカ
倉敷アヤカ
(ヤバい……っ)
女の霊の発言に私は危険を感じた。身体をこのまま奪われてしまうとマズイ。
しかし霊の気持ちが強すぎて身体の主導権を取り戻せない。
倉敷アヤカ
倉敷アヤカ
(私の身体、返してっ!)
女の霊
このまま2人でもう一度やり直したい
男の霊
そうだね、2人でやり直したい
倉敷アヤカ
倉敷アヤカ
(いやいや、ダメですダメですっ!)
私の心の叫びをスル―し、女の霊は鷹見リョウトの顔に私の顔を近づけてキスをしようとする。

倉敷アヤカ
倉敷アヤカ
(いやいや待て待て待てっ)
私の抵抗もむなしくキスまであと数センチ――!



縁結びの神様
縁結びの神様
はい、そこまでですっ!
パンっと空気を裂くような音とともに縁結びの神様が凛とした声で現れた。

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