今度の縁結びのターゲットはこの世を去ってしまった恋人たち。
斜め上をいく縁結び案件に私も鷹見リョウトもどうすればいいのか悩んでしまう。
覚悟を決めた私は、ベンチに座っている男と女に声をかけた。
彼らは一瞬驚いていたが視える人間に出会えたことを喜んでくれたのか、にっこりと笑いかけてくる。
どちらも死人にしてはきれいな姿をしており、この世に怨恨を残している様子はなく穏やかだ。
男女の霊はほぼ同時に発言してくるため会話をするのは大変そうだった。どちらも私には反応を示すものの、霊同士でのやり取りは一切ない。
この2体の霊はやはりお互いの存在に全く気付けていないのだ。
困った。男女の霊はお互いに待ち続けている。すぐそばにいるのに気づくことすらできないなんて。
私は二人の話を聞いて胸が締め付けられた。何万分の一か。何十万分の一か。
どの程度の確率だったのかはわからないけど、この二人は約束の日にどちらもこの世を去ってしまったが、約束していたからこの場にやってきた。
お互いに亡くなっているということも知らずに、いつか待ち人が来るかもしれないと思いながら。
私は鷹見リョウトの腕をつかみ、彼の瞳をじっと見つめた。
誰かに懇願するのはいつ以来だろう。私は鷹見リョウトに会えなくなってしまった男女のために身体を貸してほしいと懇願した。
危険なことを頼んでいるのに鷹見リョウトが明るく笑うものだから、私もつられて笑っていた。
私は男女の霊に向き直り
と真実を告げた。
私は鷹見リョウトの手をとり、男女の霊体と身体が重なりあうよう一緒にベンチに座った。
ひやりと冷たいものが一気に身体へ流れ込んでくる。女の霊が私の中にはいったのだ。
鷹見リョウトは身震いをひとつした。おそらく彼の中にも男の霊が入りこんでいる。
じわりと胸の奥が温かくなった。頬を伝い落ちてくる涙まで温かい。
私の手が鷹見リョウトの顔に触れた。鷹見リョウトの腕が背中に回されしっかりと抱きしめられる。
これは私と鷹見リョウトの意思で行われている動作ではない。今、私たちの身体を使っているのは男と女の霊だ。
女の霊の発言に私は危険を感じた。身体をこのまま奪われてしまうとマズイ。
しかし霊の気持ちが強すぎて身体の主導権を取り戻せない。
私の心の叫びをスル―し、女の霊は鷹見リョウトの顔に私の顔を近づけてキスをしようとする。
私の抵抗もむなしくキスまであと数センチ――!
パンっと空気を裂くような音とともに縁結びの神様が凛とした声で現れた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。