私と鷹見リョウトは黒い糸でつながる前の生活に戻った。だけど変わったこともある。
2人で行動を共にすることは減ったけど学校でも会えば挨拶をする程度の関係は保っているし、最近は霊の類や悪いモノを視る回数もぐっと少なくなっている。
紺太郎は黒い糸が消えるまで私たちの傍にいてくれるということで、毎日あの白い毛皮をモフモフできることだけは嬉しい。
朝に学校で挨拶を交わすだけなのにとても嬉しい気持ちになる。だけど彼の傍には女子がたくさんいる。
背後からひそひそと聞こえてくる私への評価が私を惨めな気持ちにさせる。それだけ私と鷹見リョウトは住む世界が違うと思い知らされる。
鷹見リョウトは意外なことに後ろで囁いていた女子生徒たちを睨みつけた。
驚いた彼女たちはそそくさと逃げていった。
まさか私をかばってくれるなんて。
にやりと笑う鷹見リョウトに、私はおかしくなって笑ってしまう。彼は私の想像よりもずっと優しくて意地悪な人だった。
なんとなく視線で彼のことを追っているうちにわかったこともある。
みんなに優しいけど親密になろうとして近づいてくる子には一定の距離感を保とうとすることや、爽やかな笑顔でひどいことをそれなりにいっていることとか。
外見だけでなく中身も満点という鷹見リョウトの噂は大間違いだったということも。
急に真剣な顔つきをされ、私は困惑した。みんなと同じように扱っているわけではないと言われているようで、悲しい気持ちになる。
気まずい空気を察したのか鷹見リョウトは明るい話題に切り替えてくれた。
あの公園というのは以前男女の霊に身体を奪われそうになった場所のことで、私たちにしかわからない暗号のようなものだ。
紺太郎は現在、我が家に居候中。散歩がてら外に連れ出すことも多い。
私が握りこぶしを作って言うと、彼はなにそれと小さく笑った。
鷹見リョウトと別れた後、私は教室に入った。
今まで自分から声をかけることなんてなかった。だけど鷹見リョウトと話をすることに慣れたおかげか今では自分から声をかけられるようになっていた。
初めはみんなに驚かれたけど、今では普通に受け入れてもらっている。
友達と呼べる人も数人できた。私の周りは確実に変化が起きている。
そして紺太郎のおかげで鷹見リョウトと二人で会う機会ができて、嬉しいやらドキドキするやら大忙しだった。
学校が終わってからまっすぐ帰宅した私は急いで紺太郎の毛皮をブラシで整え、自分の準備に取り掛かった。
部屋の中でタンスから持っている服を全て引っぱり出しながら、紺太郎相手に助力を求める。
紺太郎がコンコンと鳴いた。
縁結びの神様はさすが女子力高めです。たった15分ほどで服のコーディネイトから化粧と髪型までセットしてくれちゃいました。
しかし日頃しない格好をさせられて恥ずかしい。
可愛い服だし、ぱっと見た感じオシャレな女子みたいに見える……ような気がするし、いつもおろしっぱなしだった髪は後ろでくるりんぱとまとめられてすっきりしている。
でも!
しかしふと思う。
縁結びの神様に笑顔で送り出された私は、なぜか早く鷹見リョウトの顔が見たくなって紺太郎とともに駆け出していた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。