放課後、可愛い女子たちに囲まれていた男がそう言って取り巻きたちから逃れてきた。
天は二物を与えずというけれど顔良し、性格良し、文武両道と噂される高スペック保持者の鷹見リョウトを見ているとそれは嘘なのだとハッキリわかる。
彼が私を見つけるや否や片手を上げて爽やかな笑顔と共にこちらまでやってきたせいで、鷹見リョウトに放課後デートの誘いを断られた女子たちの視線が一斉に突き刺さった。
私は頬をひくつかせながら、学園一のイケメンと学園一影の薄い私を強引に結びつけた黒い糸を睨む。
私の小指と鷹見リョウトの小指には運命の赤い糸ならぬ呪いの黒い糸が結ばれている。
古ぼけたオンボロ神社で神様を馬鹿にした日の夜ーー私の枕元に巫女さん装束を着た綺麗な女の人が立っていました。
ポロリと口から出てしまった本音に自称神様の柳眉がピクリと吊り上がった。
はい、とてもカンカンに怒ってしまったその御方こそ縁結びの神様だったのです。
よよよ、と大げさに泣き崩れながら服の袖で目元を押さえる縁結びの神様……しかし理解が追いつかず私の頭は混乱した。
面倒になって考えることを放棄したら急に眠たくなってきた。
神様が何か説明していたけど、だんだん瞼が重たくなっていき私は心地よい微睡みに身を委ねて寝落ちしてしまった。
翌朝の私は眠気が残ったままでぼんやりとしていた。
洗面所で欠伸をしながら顔を洗っていると視界の端に黒いものが見えた。
泡のハンドソープで両手をゴシゴシと洗ってみるが
黒い糸クズのようなものは左手の小指についたままだ。しかもしっかりと結ばれているような……私は昨夜の夢を思い出し背筋が凍った。
黒い糸はだらりと伸びておりどこまで繋がっているのかわからない。
疑問を抱えたまま朝御飯を適当に済ませ、私は時計の針を見て慌てて学校へ向かった。
下駄箱で靴を履き替えていたら随分と失礼な挨拶をされた。私の名前が思い出せないってか。
そりゃ影も薄いし暗いし地味だけど、名前すら知らないのなら挨拶せずに無視していけばいいだろう。わざわざ声をかけられる方が不愉快だ。
相手の顔を確認がてら嫌味をたっぷり込めて挨拶を返すと、声をかけてきた人物は顔をしかめた。私も相手を見ただけで「げ……」と思ってしまう。
噂で聞いてはいたが、私とは正反対の人物を目の前にすると本能的に拒絶反応がでる。
鷹見リョウト、学園一のイケメン。話したこともなければ同じクラスになったこともない。だけどそんな私でも知っている程、有名な人。
彼のまとう雰囲気からは明るくて爽やか、そして誰にでも好かれそうな人当たりの良さが感じられる。
きっと私とは真逆のリア充生活を満喫しているに違いない。そんなことを考えているとなんだか無性にイラついてきた。
彼は自分の左手の小指を立てて見せた。私は鷹見リョウトと自分の左手を交互に見比べて不吉な兆候を感じる。
半信半疑で聞いてみると、鷹見リョウトはその場にうずくまり頭を抱えてしまった。
こうして私と鷹見リョウトはめでたく呪いの黒い糸で結ばれてしまったのでした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。