重岡side
赤色、白色、緑色で賑やかな街並みを
俺は今車で走り抜けている。
勿論聖なる夜に向かう場所は相変わらずあなたの病院。
花とちょっとしたクリスマスプレゼントを
助手席に乗せて病院まで向かっている時に
駅前で路上ライブやっている若者が見えた。
窓を閉めていても分かる大きな音に耳を傾けながら
信号を待っていた。
青信号と同時に走らせた車はこのなんとも言えん
俺の気持ちを矛盾させていた。
「クリスマス」やからかな。
それとも別の理由やからなのか…。
「大好き」って言っても返事は無かったり
届かないからなのか…。
でも俺ってやばいと思ってる。
例え俺が「大好き」って言ってその返事が
思ってたものとは違くても
それだけ嫌いになったりなんかしないって
嫌いになる理由がないって
そう思ってる。
忙しなく走り抜けた車はあっという間に病院に。
クリスマスやから家族連れも多かったけど
特にバレるとかそんなんはなくスムーズに
あなたの病室まで来ることが出来た。
ベットに近付くといつも寝ているはずのあなたは
今日は起きてた。
それになんだか今日は気分が良さそう。
ベットの隣には小さめやけどツリーが飾られてた。
あなたの目に入るようにツリーを持って行くと
直ぐにツリーに手を伸ばしてきて俺は優しく
ツリーをあなたに渡した。
カバンとか花束とか色々起き終えて
あなたのベットに戻ったら
あなたはツリーを持ったまま横に振っていた。
このままだと危ないなって思ってあなたの手から
ツリーを離してやると
ツリーを返せと言わんばかりに
俺の手首をいつもより強く握られた。
…まぁ、全然痛くなかったけど。
渋々ツリーを渡したどぷいっと今度は外を見始めた。
問いかけても特にん〜!とか言わんかったから
ツリーをもう1回ベット横に戻して
またグチャグチャになっている毛布をかけ直した。
俺は一旦またあなたから離れてカバンと一緒に置いた
綺麗に包まれた青色の箱を持ってきた。
ゆっくり「クリスマス」って言ったら分かったのか
ちょっと反応したからそのままクリスマスプレゼント
を箱から取り出してあなたの綺麗な指にそっとはめた。
白色の綺麗な指輪を人目見た途端
あぁー、これは絶対似合うって思って
速攻買ったこの指輪。
あなたの指にはめたらあなたも気になったのか
指輪をジロジロ見た後ちょっとだけ笑ってくれた。
左手の人差し指にはめた指輪。
いつかこの指輪を俺が自分で左手の薬指に
はめる未来が来て欲しい。
もしかしたらこの指輪よりももっといい物が
見つかるかも知らん。
それはその時に絶対買ったるねん。
あなたならどれも似合うと思うから。
愛おしそうに指輪を見るあなたを見て
いいプレゼントになったなって思ったし
最高のクリスマスになったなって思った。
……でも、やっぱり
年に一度のクリスマス。
ある意味1人のクリスマス。
好きな人は居るけれど
今は告白なんて出来ひん環境におる。
今のあなたは「好き」っていう2文字の意味を
分からない。
昔のあなたなら「好き」っていう2文字の意味を
知っている。
なんならちょっと照れるくらい。
褒められることは慣れていても
「好き」だの「可愛い」とかの言葉には慣れてない
あなたがめちゃくちゃ可愛かった。
照れたりするん?
何言ってんの俺をつっこんでくれるん?
俺はきっと日本中に存在しているような
ベタな恋をしているんやと思う。
歌にあるような恋をして
歌にあるような失恋をしたんやと思う。
月日って言うのは時に幸せを感じられて
月日って言うのは時に残酷で少し儚い。
布団とかをかけ直してあげて俺は顔を見ずに
適当にカバンを持って廊下に出た。
こんなに冷たくあなたに当たってしまったのは
初めてやと思う。
泣いてへんかな。傷ついてへんかな。
でも泣き声とか聞こえへんから
きっと寝てしまったんかな。
病院の外に出れば冷たい風が俺を震わせた。
コートのポケットに冷えた手を突っ込んで
高校の時のあなたの温もりを探してた。
〜過去〜
高校1年生の冬
いつも通り学校の最寄り駅まで一緒に歩いて
帰ってた時。
あなたは白色のマフラーだけで見るからに寒そう
やった。
一方で俺はマフラーに手袋にダッフルコート着て
あなたより厚着だった。
ゆっくりゆっくり俺の後を歩くあなたに合わせて
俺も歩いてたけれど突然左にあなたが来た。
すると急に俺のコートの左ポケットにあなたは
自分の手を入れ始めた。
結局俺は諦めてポケットにあなたの手を突っ込ませた
まま最寄りの駅まで歩いた。
〜過去終〜
ため息さえも白く形どる街で
俺は思い出に浸って寂しくクリスマスを過ごしてた。
どれも宝物でまだ思い出すあの日々。
あなたがいたから意味があったあの日々と
あなたが必要でたまらない今年の冬。
10年という月日を今とても実感してる。
それでも俺があなたのことをずっと一途に
思っているのはきっと
この首に巻かれている赤いマフラーなんやろう。
2人で会わなければこんな苦しい思い
感じなくて済んだのに
それでも俺はあなたを選んで
あなたを好きになった。
それでも好きやった。
クリスマスなんてなければ
クリスマスなんてなければ
もっと もっと…
クリスマスなんていう行事がなければ
いつも通りの平日の夜だったのに…。
何も変わらない夜だったのに…。
パーキングエリアに向かう途中に
カバンの中で鳴った携帯を取り出すと
照史がグループメールで
「忘年会行こー!」って元気なスタンプと共に
送られてきた。
もうそんな時期か…。
「忘年会」
一般的にその年の苦労を忘れるために執り行われる物。
俺にとったら毎日忘年会したいくらいの日々。
1人になりたかったからか
それともやっぱりあなたとの思い出と一緒に
居たかったからか
今日はというか今年もその「忘年会」の出席を
取りやめた。
さっき別れたばかりの彼女をもう愛おしくて
仕方がない俺。
だからこそ余計に早くこの場を去りたくて
直ぐにパーキングエリアからその場を退けて
直ぐに家に帰ることにした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。