重岡side
神ちゃんから貰った嚥下食。
早くお腹を好かせているあなたに
食べさせなあかんなって思って
エレベーターを乗らず階段で駆け足。

リビングに繋がる扉を開けて
直ぐにソファに。
あなたが腕を広げたから素直に抱きしめた。

あなたをそのまま姫抱きにして
近くにあった車椅子に座らせて
机まで連れていく。
神ちゃんから貰った嚥下食を早速紙袋から
出してタッパーを開けてあげれば
直ぐに食いつく。笑

慌てて台所まで行ってスプーンを持ってきて
あなたの隣に座る。
まだ一人で食べるのが難しいから
俺が食べさせなあかん。
1口サイズの量をスプーンですくって
あなたの口に持っていく。

口を大きく開けたあなたの口に入れて
俺がゆっくり噛むジェスチャーをやれば
あなたもゆっくり噛んで食べてくれた。
食べ終わればまた口を開けて次を待つ。

その繰り返しを続けて
やっぱりお腹が空いていたのか
直ぐに嚥下食を食べ終えた。

一言だけどちゃんとあなたの声で｢うん｣と聞けた。

幸せやった。
驚きよりも幸せやった。
やっとあなたと会話ができた。

そう思えばより幸せで…。

涙が溢れそうやった。
そんな情けない姿をあなたに見せたくないから
慌ててそばにあった紙袋を畳むために
紙袋を持ち上げたらまだ中に何かが入っている
重さを感じて慌てて中を見たら
神ちゃんがわざわざあなた用に食べれる
デザートまで作ってくれてた。

スプーンをささっと洗って
ゼリーを1口サイズの量をスプーンですくった時

テレビにはヒット曲ランキングを流し
GReeeeNさんの｢キセキ｣が流れ始めた。
少し遅れて口ずさむ声に思わずハッとした。

その声は間違いなく
テレビを見つめて歌を歌っている
あなたのものだったから。
歌というよりブツブツと何かを呟いてるような
ものだったけれど確かにあなたは歌っていた。



ホンマに、キセキや。
余りにも嬉しくて俺もスプーンを置いて
ずっとあなたのことを見ていた。

スマホを持ってきて椅子をピッタリ並べて
あなたの隣に並んで写真を撮る。

家に久々に来た記念日。

あなたがやっと話してくれた記念日。

あなたが歌を歌った記念日。


記念日は何個もいらないって思ってた俺やけど
沢山あってもいいと思った。



今撮った写真をあなたに見せたら大喜び。
俺も嬉しくて今撮った写真を待ち受けに設定した。

























ちょっとした長旅にあなたは疲れて
そのまままた寝てしまった。
俺のベットに連れて行って寝かせて
俺は何かあったら嫌やから
俺も椅子を持って行きベットの隣に座った。

何も起きずちょっと暇になっていた時
ポケットに入れていたスマホが鳴って
スマホを見れば神ちゃんからの電話で
俺は部屋を出て電話に出た。

神ちゃんの電話も終えて静かに部屋に入る。
すやすやと眠るあなたの近くに行って
椅子に座る。
目にかかっている前髪を横に流せば
ちょっとだけ笑ったあなた。

キセキをありがとう。

幸せをありがとう。

嬉しさをありがとう。


無くしかけた物を取り戻してくれてありがとう。

あなた。

俺はまたさっき撮った写真を眺めて
あなたを抱きしめながら眠りについた。