重岡side
今日の楽屋では妙に静かやった。
…俺が台本読んでるから皆遠慮してるんかな。
何となく皆に覚えた「違和感」。
きっと皆聞きたいんやろう。
俺の「用事」を。
でもそんな簡単にペラペラと言えるような内容
やない。
俺がそう言うと分かりやすく落ち込む人や
俺を見てやっぱりそうよなって感じの人も。
言いたいけど言えないんよ。
俺だけのあなたやから。
また台本に視線を落とすとそこには俺らを
思い出させるような台詞が書かれていた。
台詞には
「…なぁお前将来何になりたいん?」
「…うーん
あっ!なら鳥羽と一緒に大きな家に住む!」
「なんやねんそれ。」
「…黄色の屋根!2階建てだよ!絶対一軒家!」
って書かれていた。
俺らも昔よく将来について話し合ってた。
〜過去編〜
高校2年の秋。
俺とあなたも部活とかレッスンとかなかった時
2人で一緒に帰ったある日。
あなたは余程悔しかったのか
俺が持ってた炭酸飲料を奪って振りやがった。
〜過去編終〜
そのままあなたは走って俺も付いてくのに必死やった。
あのまま俺らは
走んの早いなー!とか
寒いなー!とかしか喋らなくて
気付けばお互いの家の前やった。
あの時変に誤魔化したけど
恥ずかしくて言えへんかっただけ。
赤色の屋根で暮らしたいって
今も思ってる。
あなたは覚えてんのか分からん。
なんせあれから10年以上経ってるから。
あなたは未だに寝たまんまやから
起きた後そんなこと言ったっけ?って
言われるに違いない。
こんなん俺のわがままやけど
やっぱり覚えてて欲しいなって。
早よ2人で赤い屋根の家で暮らそうや。あなた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!