重岡side
リハビリで疲れて寝ているあなたの手を
握ること約1時間弱。
空の色も綺麗な夕日が見えていた時間から
今は満月が顔を出している。
握っている手を優しく摩っても
何も反応がなく寂しい時間がただ流れて行った。
気づいたら俺はあなたの手を握ったまま
寝ていたらしい。
それに誰かに髪の毛を遊ばれている。
まぁ犯人なんて1人くらいしか居らんのやけど…。
手首の次は髪の毛らしい。笑
これもきっとおもちゃ感覚なんかな……。
俺がパサって起き上がったらグイッて引っ張られ
何かと思えばまた手首で遊び始めた。
黙々と俺の手首を触って遊んでいるあなた。
俺が投げかけた質問でさえも聞こえないから
相当好きなんやろ。
今度はちょっと反応してくれた。
何言ってくれるんかなってあなたの顔見ながら
待っていたら
手首をギューって力一杯込めて「んー!」って唸るから
もうどっちがどっちなのか分からんかった。
あなたと過したあの青春を思い出しながら
今回の役は出来るだろうか。
俺が演じるのは高校3年のサッカー部の三島碧斗。
1人の幼なじみに片思いをするっていう
ベタなやつ。
やけど…
あなたと過ごしたことの無い唯一の高校3年生。
いつもならあの光り輝いていた日々を思い出しながら
役に入り込めるけれど…
過ごしたことの無い空白の時間の真っ白な思い出を
思い出しながら高校3年を演じることに
俺はちょっと躊躇っていた。
あなたがいたら あなたが隣にいたら
きっと高校3年間は楽しかったやろ。
でもあの日俺が…。。。。
後悔しない日なんてない。
あの日あの時俺がっていつも思ってる。
本当なら今頃幸せだったはずや。
誰かの隣で笑って
誰かの隣で泣いて
誰かの隣で一緒にテレビ見たり
大きな所で働いていたはずやったと思う。
あなたの昔からの夢も叶ってたに違いない。
それこそ高校の文化祭で言ってたやんな?
「めっちゃ美味いパンケーキ作って売るんや!」って。
密かに楽しみにしてる俺もいるけれど
俺が食べる資格があるんかなって思ってる。
絶対あなたが作るのは美味いに決まってるけど…。
色々考えていた時手首を握られていたはず
のあなたの手はだんだん緩くなっていて
目元を見れば今にも閉じそうやった。
空いている方の手であなたの目を優しく閉じれば
一気にまた寝たあなた。
弱々しくまた握られた俺の手首を退かして
代わりに俺のハンカチを握らせ
俺は音を立てないようにあなたを休ませる為に
そそくさと家に帰った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。