重岡side
気がつけば朝。
…正直昨日のことなんて覚えてない。
あれから俺タクシーにお金払ったっけ?
色々不安になってカバンから財布とったら
ちゃんと領収書あるから金は払ったんやなって
安心して。
……あれ?
もう色々訳分からんから
とりあえず不安なものは全部やろって思って
シャワー浴びて、朝からボリューミーな飯を食った。
マネージャーに今日の予定を聞けば
俺は1日オフらしく。
なら今のうちに花屋も寄りたいから用意して
あなたの所に行こうってなった。
なら今日は自分の車でいいか。
自分の車に乗ってエンジンをかける。
音楽もなければ会話もない。
当たり前か…。
車を走らせること数十分。
この前来た花屋が見えて車を止めて
この間買った花と同じ花を花束にしてもらい
また車に乗って病院に向かった。
近くのパーキングエリアに車を止めて
見慣れた病院の入口に進んで中に入る。
途中横を通り過ぎる看護師に挨拶して
あなたの病室の前まで来た。
ガラガラと扉を開けて中に入ると
前に俺が忘れたタオルを手に持ってすやすやと
寝ているあなたがいた。
優しく頭を撫でると
閉じてた瞼がゆっくり空いてその綺麗な瞳には
俺を捉えた。
かと思ったら持っていたタオルをポロッと落として
俺の手首をにぎにぎと掴んでキュッと握ってきて
あなたは優しく笑った。
片手に持ってた花束とカバンを
ベット付属の机に置いてその後にそのまま
近くにあったキャスター付きの椅子を持ってきて
それに座った。
ずっと俺の手首をにぎにぎと握ったあなたは
ちょっと唸って俺の顔を見ての繰り返し。
特に笑うなど、喋るなどなんてありゃしない。
…今も。
掴まれてない方の手で頭を撫でると
あなたは目を細くして首を竦めた。
唸ってはキュッと俺の手首を握るあなた。
その繰り返しで俺もしなきゃいけないこと
あったけど今はそんなの忘れていた。
何回か繰り返してた時ドアがノックされた。
すると外から先生たちが入って来て
俺らを見るな否や直ぐに笑顔になった。
医師「あ、おはようございます。今日は早いですね。」
医師「そうなんですね。あ、あなたさんも
ちょっと反応ありですね。よかったよかった。」
医師「…まずは朝の検査からしますね。
…あなたさーん、体温測るので
一旦、重岡さんの手首離してね。」
優しくあなたに話しかけて掴んでた俺の手首を
離そうとするけれど…
離したかと思ったら俺の手首を追いかけて
また俺の手首を握ろうとするあなたの手を
今度は優しく握って手を摩りベットの隣に立ち
ちょっと苦しそうな顔になったあなたの頭を
摩ったりしながら朝の簡単な検査を終えた。
医師「…うん。特に以上は無いですね。」
先生と一緒にちょっとベットから離れて
色々と説明を聞いた。
医師「…赤ちゃん返りしてるので
もしかしたら先程の手首の件も
ただのおもちゃ感覚なんだと思います。」
医師「…はい。取り上げられたら嫌っていう
赤ちゃん特有の物に興味を示す合図です。」
医師「……後、朝の簡単な検査を進めて
このまま何も無ければ徐々にリハビリを進めます。
よろしくお願い致します。」
医師「また何かあったらナースコールでお呼びください。失礼します。」
先生は看護師と共に病室を後にした。
俺はまたベットに移動すると
あなたは検査で疲れたのかちょっと眠そうだった。
今のうちにやれてないことをしたいから
またベットから離れてタンスからタオルをとって
お湯で濡らしあなたの顔と腕と足を拭いて
朝買ってきた綺麗な花束を空っぽの花瓶に入れて
あなたが見えやすい1番近くの窓に飾った。
すると直ぐに花に気づいたあなたが声を上げて
手を伸ばした。
また俺の手首を探して手を動かしたから
今度は自分からあなたの腕に近付けて
握らせてあげた。
まだ朝飯食ってないのにあなたは目を閉じてしまい
俺は握られていない反対の手で
雑になってしまったけど毛布をかけ直したり
目にかかっている前髪を直して
俺もキャスター付きの椅子に座って
あなたを見つめていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!