神山side
仕事が終わったのは夕方。
ちょっと涼しくなってるかななんて
呑気に思ってたけど全然暑い。
マネージャーに事情を話せば直ぐに分かってくれて
近くまで送ってくれた。
ジメジメとした厳しい日差しに
ダラダラと流れてくる汗。
曖昧な記憶を頼りにあなたさんの
病室まで向かう。
俺の記憶が正しかったらもうすぐ。
あなたさんの名前が書かれている
病室の前に立ってコンコンとドアをノックする。
誰もいない廊下に響く静かなノック音。
そして後から聞こえる……小さな声。
スライド式の扉を開けば
ベットに座って何かを見ているあなたさん。
あなたさんは誰だと言わんばかりの表情で
俺の事を見てきた。
あなたさんの方に近付いて
ベット横に置いてあった椅子に腰かけて
あなたさんが持っている写真を指させば
そこでやっと理解してくれたあなたさん。
それからずっと写真を見つめているあなたさん。
何をしようか悩んでいた時
ずっとつけっぱなしだったであろうテレビの
音が聞こえてきた。
ーー東京も厳しい暑さとなり半袖の方が
多く見かけられました。
ーーこの厳しい暑さはいつまで続くのでしょうか。
キャスターさんが椅子に座って
ニュース原稿を読む。
何故か分からないけどずっと見ていた時
俺の服をちょんちょんとあなたさんが
引っ張った。
椅子から立ってちょっとと奥にある
エアコンのスイッチで温度を上げようと
歩こうとした時
俺は振り返ってあなたさんを見れば
あなたさんの視線は明らかに写真に写っている
しげを見つめていてそれから少し首を傾げ
確かめるようにそう言った。
俺は違和感を覚えて慌てて椅子に戻った。
なんでもないというように
あなたさんは首を振る。
何か隠している。
シンメの メンバーの
頼りのない勘がそう告げていた。
………でもそれがなんなのか。
俺はまだよく分かってない。
でもその何かがすぐ分かることに
俺はまだ分からなかった。
辛い思いをしてる人が
こんなにも近くに2人も現れるなんて……。
俺がもっと早く気づいていれば……。
ごめん、しげ。
頼まれたのに……。
俺は任せたらはずなのに
何も力になれなかった。
ごめんな、しげ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!