重岡side
苦痛な朝やった。
俺が起きてもあなたは起きてないし
優しめにマッサージしてもこれが痛いのかなんて
分からん。
髪も櫛でといても痛いのかなんて分からん。
もっとそばにいたいけれど
残念ながら今日は全員で仕事やから
行かなきゃあかん。
ちょっと痛いかも知らんけど
俺は力強くあなたの手を握った。
暖かい温もりをそのまま変わらず守りたい。
守り抜きたい。
既に枯れていた花をゴミ箱に捨てて
物寂しい花瓶を撫でて
荷物を持って廊下に出た。
タクシーの中でもみんなといる時でも
必ず先生の言葉が頭をよぎる。
「このままだと目を覚まさないかもしれない。」
声も顔も不器用なところも
全部全部愛しているあなたを
俺はどうして離さなきゃあかんのやろ。
俺が何をしたって言うねん。
あなたが何をしたって言うねん。
あなたに教えたいんよ、色々。
めっちゃ変わってしまった世界で
生きづらいかも知らんけど
でもその分俺が隣で支えるって誓ったのに
何か間違ってたんかな…。
多分、今日は「空元気」やと思う。
それくらいしかせな俺もやっていけないから。
あれから俺と淳太のペア撮影も終わって
ボーとしてたら1冊目の撮影もあっという間に
終わっとった。
この際だから言ってみようかな……。
でもなんで?って思うよな。
仕事熱心な俺が何を言ってんねん
って話やもんな。
……いいや、やっぱやめとこ。
神ちゃんだけで、ええや。
淳太と喋りながら楽屋に戻って
照史から貰った弁当と小瀧から譲ってもらった
椅子を神ちゃんの隣に置いて
弁当を開けた。
弁当の蓋を開けると
おかずの小さな盛りつけのところに人参と
きゅうりが入っているのを直ぐに目に入った。
この野菜はちょっと苦手やな笑
〜過去編〜
高校1年の秋
俺らはいつもお弁当を一緒に食べてた。
お互いの好きな物とか嫌いなもんは
どちらかが食べるって何故か決まってた。
ある日あなたの弁当に
あなたが大っ嫌いの人参が入ってた。
弁当あけて直ぐにあなたに話しかけられたから
特に何入ってるか分からんくて
慌てて俺も中身みたら綺麗にきゅうりが入っとった。
まだ使ってない箸できゅうりをあなたにあげて
俺はそのまま自分の箸で人参を貰った。
〜過去編終〜
あなた、ほれ
俺の嫌いなきゅうりやで?
あなた食べてくれるんちゃうんか?
俺はあなたの嫌いな人参食うけど
誰が俺の嫌いなきゅうり食ってくれるん?
そんで……
なんでこんな時に限って
あなたとの思い出が溢れるようなこと
ばかり起きるんやろう。
いい加減、諦めろって事なんかな……。
でもそれはあかんやろ…。
俺が信じなあかんのに…。
綺麗な思い出は思い出のままにしたい。
暖かい太陽のような日々はずっと宝物で残したい
隣にあなたが居てあなたの隣に俺が居て
永遠とか、一生とかどこにもないけど
でもあなたとならあるんちゃうかなって
思ってた。
隣の神ちゃんが手を止めて俺の方に手を
伸ばそうとしてきたところを
俺は立ち上がって携帯を持って楽屋に出た。
このまま神ちゃんの優しさに甘えてばっかは
あかんから。
楽屋から出ても特に何もすることなくて
近くにあった自動販売機の前の椅子に座って
携帯を握りながら座っていた。
悔しくも2つある自動販売機のうち1つの
飲み物の並び方が
俺が大好きな飲み物とあなたが好きな飲み物とが
並んでいてまた更に涙が溢れた。
炭酸飲料とミルクティー
俺とあなたが並んでいるようや。
過去の俺と過去のあなた。
今の俺らはきっとその隣の自動販売機の
飲み物の並び方だろうな。
炭酸飲料とミルクティー
炭酸飲料はまだ販売されてるけど
ミルクティーは販売切れ。
今の世界で表すと
俺…つまり炭酸飲料はここにあって
あなた…つまりミルクティーはここにいない。
ほら、売れ切れみたいやろ?
似てるな?2人とも。
あなたやって、そうやろ?
自動販売機みたいに似たくないやろ?
適当に涙を払って楽屋に戻った。
うるさい小瀧を適当にあしらって
今度こそちゃんと弁当を開けて食べ始めた。
パパっと食べ終えて歯を磨いて
別の衣装に着替えるために
神ちゃんと一緒に楽屋を後にした。
着替えてる間も神ちゃんと笑いながら
楽しく過ごせてたけど
この時はまだ分からなかった。
携帯に、病院から電話が入ってたことに…。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。