小学校・中学校・高校と常に俺から離れず、くっついている横尾さんと藤ケ谷「たまには独りになり、息抜きがしたい」そう思った俺は怒られるのも承知の上で珍しく早起きし彼奴らが迎えに来る前に家を出た、ガタンゴトン、ガタンゴトンー
(しっかし相変わらず混んでるなぁ~仕方がない我慢するしかないし)
電車に揺られ数分後、何やらお尻に違和感を感じる
さわっさわっさわっと、まるで意図的に触れてくる手のひらの感触。
(まさか痴漢?ちょっと待て俺、男だぞ)
が、次第に臀部を揉みだして明らかにそうだと分かったとき全身に悪寒が走り抜ける「どどどっ、どうしよ」いつものように庇ってくれる二人はいない。強張る身体を楽しむかのように、痴漢の手は前へと進み。
「よせ、やめろ~」ズボンのファスナーが下ろされようとした、瞬間にグイッと。
誰かの手が阻止し、聞こえて来た関西なまりの声。
「えっ、今度はなに?」ざわざわっ、ざわっ、ざわつく車内を気にもせず言葉は続く。
有無を言わさず扉が開いたと同時に降ろされた痴漢
そして俺、それから駅員が来て。
(んっ?見たことがあるような、あぁ~生徒会副会長の!?)
ペコッとお辞儀をすると優しく微笑み。
不覚にも、その笑顔に見とれてしまい。
でもそれからが大変だったんだ校門の前には大勢の女子たちがいる、そこを通ったとき。
「誰が姫だって?」ギャアギャアぎゃあぎゃあ、
大騒ぎし。
(マジで意味が分かんね、この学校)
校内へ入れば…
全校生徒が大騒ぎ。
(なんだ?それ)
「はあっ?お前らのほうがよっぽど可笑しい」と、そのとき目の前に立ちはだかった1人の男。
(うっわぁ~出た生徒会長の内博貴)
(なっ、なんなんだよ?この嫌ぁ~な空気は)
不気味な雰囲気を醸し出し、周りにいた全員が沈黙する。
ざわざわっ、ザワつく周囲の連中。
(何が、えっ?どうしたっていうんだよ)
(うおっち藤ヶ谷!?横尾さんもヤバイめっちゃ恐い顔している)
(何もやってねぇし、しいて言えば痴漢にあっただけ)
藤ケ谷の言葉を聞いたとたんに、ダッと走り出す。
逃げる俺、追う藤ヶ谷。
(ダダダッ)
校内中を駆けずり回った俺達は「いい加減にしろ」と先生に、こっぴどく怒られる事となる。
(なに?それ)
それから授業が始まって、でも俺はさっき聞いた
言葉が頭から離れず。
「あっ、これか!んでも覚悟って何を?」怪しげな笑みと共に発した先生の言葉にハテナが飛び交う。
クラスメイトの1人が聞いた。
(へっ?)
先生は躊躇なく答え、ほぼ全員が「はあっ」と目が点になり…(ちょ、待って)シーンと静まり返った教室内「なぜに新入生歓迎会が鬼ごっこなんだよ?しかも、この年齢で?おかしくない」
「いくら何でも鬼ごっこはない」そう思い、ボソッと呟いた俺に対し先生は。
(はあっ?ふざけてんのか)
先生は笑顔で言い「嫌味?つうかこの学校、伝統に拘り過ぎじゃね」が、そうとは言えずギロッと歯を食い縛り睨みつける。
(先生なんだからさ言って良い事と悪いことの区別
くらいつくだろ、くっそ)
(はっ?どこに…てか、こんな時によく呑気にそんなことが聞けたもんだ)
先生の唐突な質問に俺は怒りを抑え素っ気なく返す「言っとくけど俺さっきのこと結構根に持つタイプだから」
すると、藤ケ谷が怖い顔をし話を途中で遮り「んだよ?そんなの関係ないじゃん」こいつは、よく変な例え方をするが俺にはあまり理解ができず。
いや、それはひとまず置いといて…
(気がついたんだけどさ、もしかしてそれって喧嘩のこと?だって俺、凄い目つきで先生のこと睨んでいたし、それで喧嘩を売っているように見えた…うん絶対にそうだ)
もし俺に対し、また失礼なこと言ったりしたら完全に殴っていたかもしれないとも思う「あ、そしたら退学になるか…ん~残念」
先生の声でみんな一斉に前を向き、その話はそこで終わった。そして2時限目、3時限目と続いてく。
・横尾side
昼休み、ニカや太輔・ミツと屋上で寛いでいたとき
「歓迎会と言っても普通のじゃないんだ」とつぜん
そんな声が聞こえ振り返えると。
(やれやれ、また始まっちゃった…はぁ)
桜台高校の新入生歓迎会、それは少し変わっていて
毎年、上級生が企画している言わば「初物争奪戦」みたいなもん。
(相変わらず鈍いなぁミツは、しかし河合の言う通りだ、これはかなりヤバい状況とも言える)
(あちゃ~随分とハッキリと言うやつだなぁ、ハハッ)
(うーん確かに、それも一理ある)
「だから本人にも、その趣向を理解してもらい自分のことは自分で護らせないと取り返しのつかない事になってしまう」そう言うと、太輔はやっと冷静になり。
そんな俺達のやり取りをキョトンとした顔で見つめているミツ。
昔から日本にある外遊び「鬼ごっこ」や「かくれんぼ」「缶けり」といった今の子たちはゲームばかりをしていて、そういった遊びはしないのだろうけど
そういう俺達も、どちらかと言えばその世代。が、この学校では新入生を歓迎する意味でコミュニケーションと称し全校生徒でそれを行うことになっていた。
でも郁人が言うように普通の外遊びじゃない、今回やる鬼ごっこの場合は捕まってしまったら。
(あはっ、ミツは正真正銘の同学年だよ)
(やれやれ…ふっ)
(まぁ、それはそうなんだけどさ問題は)
(つまり、あいつらの策略によっては裏でコントロールされてしまう可能性が高い)
そうミツは可愛い顔をしているわりには人一倍男気が強く、こう見えてもサッカーではかなりの強者、バリバリの熱血少年。そんなミツが逃げたり隠れたりするのを嫌がるのは目に見えていて、それだけに俺も太輔も危惧していたんだ案の定「絶対に嫌だ」の一点張りで。
太輔が言っても、頑として聞かず。
(それはそれで嫌なんだよな太輔としては)
太輔も、これを機にミツといいところまでいけたらと思っているんだから。
(あはっ…)
そう太輔とミツには周りが入り込めない二人だけの世界がある、俺はずっとそれを感じ今日まで来た。
こうして、取り合えず俺達は手を組むことにし。
明日という日を迎えるため皆それぞれの家路に着く
しかしそれは更なる波乱へ繋がりミツ争奪戦は思いもよらない方向へ飛び火することになろうとはこのとき俺も太輔、ミツ自身でさえ思ってもみないでいたんだ。
新たな参戦者が加わることで…