第9話

あり得ねぇ(北山→藤ヶ谷→北山side)
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2020/07/13 03:00
明けて翌日、今日は新入生歓迎会の日。

忘れ物はない?宏光
北山
大丈夫だよ母さん


昨日、あれから俺は藤ケ谷にこっぴどく怒られて
しまい。

藤ヶ谷
お前は、なんでそう隙だらけなんだ
北山
…いや‥その
藤ヶ谷
どうせ、うわぁふっかふかのソファー気持ちいいって気がついたら寝てしまっていたんだろ


(あはっ、ご名答)

藤ヶ谷
少しは自覚しろ
北山
何を?
藤ヶ谷
だから、あぁ~もうとにかくだな


(ガミガミ、ガミガミ、やたらと怒鳴っていたけれど要はさ、あの亀梨先輩とやらに二度と近づくなって事なんだよな)

横尾
ミツ、おはよう
北山
おはよ横尾さん


(どうして結構いい人だった気がしたよ何が気に食わないんだろ藤ケ谷は、だって俺が勝手に寝てしまったのに許してくれたし悪い人ではないと思う)

横尾
昨日は大変だったみたいだね
北山
まぁ、ははっ


チラッと横尾さんの目が、藤ケ谷の方を向く。

(てかもう会うことはないと思うし怒られるのは嫌だったけど約束通り帰りにカツサンドを奢ってもらったから、どうでもいいやもう)

投げやりなポジティブ…

藤ヶ谷
北山、今日の歓迎会だけど
北山
分かっているって俺は大丈夫だから
横尾
本当に?
北山
おう


(捕まらなきゃいいんだろ)

藤ヶ谷
俺以外のやつには
北山
はっ?


(お前にも捕まらねぇよ足には自信があるんだ)

北山
よーし、行くかぁ
横尾
なんか心配だな
北山
何が?
横尾
いや、だってさ
北山
平気だって、ちゃ~んと乗り切って
みせるから
藤ヶ谷
‥‥‥


意味もなく気合いを入れている自分。

(そう今日は伝統だか何だか知らないが、鬼ごっこ?なんてもんを歓迎会でやってそんでもって俺は逃げるポジションってわけ、はぁ~そりゃショックだった、だから昨日あんなことを今でも本当は嫌なんだけど)

なってしまったものはしょうがない、そう思うしかなく内心ため息を吐き学校へと向かう。

そして教室で自分の机にうつ伏し気落ちした気分でいると、ツンツンツン何やら肩に違和感を感じ顔を上げれば。

二階堂
ミツ、大丈夫だって俺が必ず捕まえてあげるからさ
北山
はっ?


ニカが自信ありげにそう言って「んだよ、そのやる気満々の表情は嫌味?」

北山
お前らはいいよな鬼で


俺は、そっぽを向き藤ケ谷や横尾さんニカに言葉を吐く。

二階堂
鬼がよかったのミツは?
北山
あったり前よ逃げるだなんて
ダッセーし


(周りから見れば八つ当たりしているように見えるかもしれないけれど、そんなのどうだったっていい)

二階堂
そうなんだ?じゃ逆に逃げ切れたら
カッコいいって事になるんじゃない
北山
んっ?


が、カッコいいというニカの言葉に過敏に反応し「そっ、そう?」思わず俺は聞き返す。

二階堂
うん、そうなるとは思うけど


(逃げ切れるとカッコいいのか、なるほど俺「カッコいい」って言われてみたい)

北山
むふふっ
横尾
ミツ?
藤ヶ谷
ダメだ、こいつ妄想に入っている


(だったら頑張れる気がするな、そう捉える事もできるんだと1つ学んだ気がした断然やる気が出てきたぞ)

藤ヶ谷
なぁ北山
北山
ん?なんだよ
藤ヶ谷
お前、鬼ごっこのルールって知ってる
北山
はっ?いきなりなに当たり前なことを聞いているんだ知ってるよそれくらい


(そこまでバカじゃない)

横尾
普通のじゃないよ
北山
へっ?あ…
横尾
そう、この学校独特の


(そういえば俺、途中で飛び出しちゃったから説明を聞いていなかったんだっけ)

藤ヶ谷
一応、言っとくが鬼ごっこは
全校生徒でやる
北山
えっ、1年だけじゃないの?


俺は目が点になり、瞳をパチクリさせてしまう。

藤ヶ谷
やっぱり知らなかったんだ


藤ケ谷は「はぁ~」と溜め息を吐き、やれやれといった顔をし。

北山
教えてくれ詳しく
藤ヶ谷
いいか、よく聞け
横尾
鬼に捕まったら言うことを聞かなければならない、これは分かっているよね
北山
あ、あぁ


(屋上で河合やお前らと話をしてたとき聞いたから)

藤ヶ谷
つまり、それは
横尾
さっきも言ったけれど、この鬼ごっこは普通のとはちょっと違い


(そこら辺の小学生がやっている、ただの鬼ごっこ
じゃない?ふむふむ、なるほどって分かんねぇよ
全然)

藤ヶ谷
同じじゃつまらないしサボる奴も出てくるだろ
北山
まぁ、確かに


俺は、コクリと頷いた。

藤ヶ谷
でも賞品がつくとなれば
北山
ぁ…‥


(それは、ちょっと目の色が変わってしまうかもしれないな俺けっこう物に釣られるタイプだから、そういうのに弱いし)

横尾
で、あのとき屋上で話してたように
藤ヶ谷
鬼には捕まえた逃亡者の中から1人だけ選び命令ができる特権が与えられているってわけ


「1人だけ?」ここまでは理解できた?っと、念を押すように藤ケ谷が聞く。

北山
おっ、おう捕まっても選ばれなければいいんだな
横尾
でもねミツ
二階堂
俺なら確実にミツを選ぶ


(げっ、まっぴらゴメンだ、んっ?待てよ逃亡者は
ただ逃げるだけなのか賞品は無いの)

北山
じゃ逃げる側にその鬼みたいな特権は


疑問を言葉に出し言ってみた「もし無かったら不公平だ」そう思い。

横尾
もちろんあるけど、それは最後まで
誰にも捕まらず生き残ることができ
たらの話し
二階堂
そしたら自分が好きな願いを何でも
叶えてくれるんだって
北山
なっ、なんでも?
藤ヶ谷
あぁ


俺の瞳がキラキラと輝く希望を見出だしたかの如く

北山
よっしゃあ~肉、俺、肉が食べたい
1年分のお肉が食べ放題でよ
二階堂
あ…あはっ、ミツったら‥んふふっ


俺は手でガッツポーズを決め大声で叫ぶ。

(そんな特権があるのなら最初っから言えよ、藤ケ谷ったら勿体ぶりやがってさ)

すると、喜んでいる俺の肩に藤ケ谷が手を置いて。

藤ヶ谷
残念だけど、お前は最後まで残れない
北山
えっ
藤ヶ谷
俺に捕まる運命だから
北山
はあっ?


ふふふっと、口角を上げ妖しげに笑い「不吉なことを言うな呪いの言葉みたいに」

北山
嫌だね俺は大好きな肉を腹一杯
食うんだ
横尾
ミツ、はぁ…


(絶対に捕まるわけにはいかない)

藤ヶ谷
あれ前に言ったよね俺から離れるなって、だから大人しく捕まりな
北山
それとこれとは話が別だろ


(卑怯すぎる脅すにも程がある)

二階堂
ミツは肉と俺、どっちが好きなの?
北山
肉に決まっているじゃん


急に割り込んできたニカに、正直に答えたらガラッと扉が開き。

担任
よーし、みんな席につけ


先生が入って来て、いよいよ新入生歓迎会が始まる





・藤ケ谷side

俺達は、それぞれが前を見つめ思うところは多少のズレがあるものの今日という日を次へのステップにしようと気合いを込めた瞳で担任の次の言葉を待った。

担任
歓迎会で行う鬼ごっこなんだが
ちょっと変更がある


ざわざわざわ、ざわつく教室内「パンパンパン」
先生が手を叩き。

担任
静かにしろ~いいか、ただ鬼と逃亡者に分けるだけでは面白味に欠けるということで


(はっ?警察と泥棒、それってケイドロだろ)

担任
本来このゲームは警察と泥棒にチームが分かれ


互いに人質を取り合い最終的には多い方が勝ち、というのが正式なやり方。くわえて双方のチームには自分たちの陣地があり人質となっている仲間にタッチしたら助け出すことも出来る、しかし歓迎会では

藤ヶ谷
冗談じゃない、きったねぇ~それ
横尾
太輔


最初っから人質候補に選ばれた生徒が敵陣の真っ只中へ放り出され逃げ惑うことになり、仲間を助けたければ自ら飛び込んで行けというもの。

もちろん、それで捕まってしまったら人質となるのは必然。その選ばれた人質候補の中に北山がいた、いや初めに決めた〈逃亡者〉あれが人質候補だったんだ。

担任
それから今年は創立20周年という事でサプライズがあるかもしれないぞ


(なんだよそれ俺には関係ない、それよりどうする)

担任
まぁ、楽しみにしていなさい


チーム分けはクラスごとにしてあり、挙げ句に1年の殆どが泥棒で。

二階堂
ガヤこれじゃミツを捕まえるどころか護ることすら出来ない
藤ヶ谷
ちっ
北山
大丈夫だって俺、絶対捕まらないから


(その自信は、どこから来るんだ?)

北山
足には自信があるし
横尾
まぁ、確かに
北山
サッカーで鍛えたこの身体、そう簡単には追いつきやしないさ


(だといいんだけどな)

担任
そろそろ時間だ全員校庭へ集合しろ


が、不安を残し新入生歓迎会は始まってしまう。

(こうなったら北山を信じるしかない、いざという
ときには)

もし誰かに捕まってしまったら殴り合ってでも護り抜く覚悟でいた彼奴の貞操を、だがそこには思わぬ結末が待っていたんだ予想だにしていなかった。




・北山side

ぞろぞろ、一斉に移動してく全校生徒たち。その中でニカが俺の傍まで寄って来て。

二階堂
絶対に捕まったらダメだからな、じゃないと嫉妬しちゃうよ俺


ムッと頬を膨らませ両肩に手を乗せ妙に顔を近づけてそう言った「意味が分からない」

が、適当に「はいはい」と返事をし聞き流し。

(つうか誰かに捕まったりするようなヘマ、俺がするわけないじゃん、そんなふうに甘く見られているとはな)

心の中で深く溜め息を吐く「俺は誰にも捕まらない必ず生き残ってみせる、そして念願のお肉を1年分をGetしてやるんだ、そしたらカッコよさがアップし一石二鳥じゃね」

自然と口元が緩み、そんな自分を心配そうに見つめている横尾さんと藤ケ谷。

(大丈夫、大丈夫だって二人とも)

それから、校庭に集合したあと俺達はチームごとに分けられ人質候補は体育館へ連れて行かれた。

そこで…

北山
あんたも人質候補さん
戸塚
戸塚祥太、宜しく


「うわっ、可愛い」俺はトッツーと出会う。

戸塚
やんなっちゃうよなぁ、敵陣の中で
逃げなければならないだなんて
北山
んだよ誰がを考えた、こんなゲーム
戸塚
生徒会だろ


(あっ、そうだった主権は彼奴らだっけか)

戸塚
北山宏光…だよね?
北山
おう、なんで分かったんで
戸塚
有名だから、んふふっ


(本当に知れ渡っているんだな俺の名、あんまり嬉しくはないけれど)

千賀
俺はね
北山
誰も聞いてない
千賀
えぇ~っ、聞いてよ
北山
い・や・だ、ガハハッ
千賀
千賀健永、尊敬する人はマイケルジャクソン
北山
チンパンジーの間違いじゃね
千賀
違うわ
戸塚
んふふっ


しかし、のんびり寛げたのはここまでで、いざ始まってみると他の人のことなど構ってはいられず。

千賀
んぎゃあ~うわぁ
北山
ぎゃあぎゃあ騒いでないで走れ千賀!


はぁはぁと息を上げ逃げまくる俺たち「完璧、甘く見ていた」こんなのケイドロでも鬼ごっこでもない

.
姫だ姫がいる可愛い~
.
止まれ~姫えぇ
.
早く俺のモノになって~


うおぉーっと馬鹿げたことを言いながら、背後から追ってくる鬼さん達、いや警察?「こんな警察いないわ、なんじゃ!?あの集団は」

始まってから30分、全速力で逃げている状態が
続いている。

.
マジで小せぇ~
.
食べちゃいたい


(小さい言うな)

千賀
ひえぇ~こっちへ来るんじゃね宏光
俺を巻き込むなぁ
北山
はっ?どさくさに紛れ人のこと呼びつけにしているんじゃねぇよ
戸塚
今は、それどころじゃないってばぁ


(ダダダッ、あり得ない、こんなの、ぜーったい)

北山
あり得ねぇーっ、ダダダダダッ


さすがに、全校生徒が参加となると厄介で。

.
ここで捕まえれば俺のもの頑張るぞぉ


(頑張らなくていいから、はぁはぁ…くっ)

獲物を追う目つきは野生を越えていて、それほど
迫力が半端ないってわけだけど。

北山
冗談じゃね捕まってたまるか


(あとさっきから「姫、姫」なんて声が聞こえてくるが、もしかして逃亡者は皆そう呼ばれているのか?だとしたらセンスの無さにビックリだ、もっとこうほら勇者とか言って欲しい。

あれ?勇者って響きなんか好きかもしんねぇな姫なんて弱っちぃ呼び方より断然、勇者の方が強く偉大な感じがするし)

って呑気に考えている余裕なんてなかった「あっ」と我に返り、すぐさまケイドロ鬼ごっこに集中し。すると向こうから見たことがあるシルエットが現れ。

(あれって、まさか…)

大倉
んっ?いたぁ~姫えぇこっちへおいで一緒に遊ぼ
北山
うおっち!?


(副会長の大倉じゃん、なんか怪しげにニヤついて
いる!?あんな奴だっけか)

ダダダダッ、初めの印象とはだいぶ違う雰囲気に
俺は即行、逃げに入り。

大倉
なんで逃げんのや~


(その顔が怖いんだよ)

千賀
わっ、どこへ行くんだよ俺を置いて
かないで宏光うぅ~


千賀の声が聞こえた気がした。

玉森
ハッ、あいつだ
塚田
玉森!


(ハァハァ、はぁ、ここは地獄か、ちっ)

おや、人気者やなぁ
北山
うっ、お前は


(生徒会長の内博貴、俺の唇を奪ったやつ)

どないや楽しいやろ?うちの
歓迎会は、ふっ
北山
どこが


キッと、その顔を睨みつける。

気に入らん?ならもうちょい
楽しんでもらわんと


(はっ?)

とたん、ドヤドヤと集まって来る生徒たち向こうが動き出すと同時に俺も走り出す。

(勘弁してくれ、もう…)

ダダダダッ、曲がり角を巧みに使って空き教室へと入り念のため掃除道具がいくつか置かれていたロッカーの中へ逃げ込み。

.
姫が消えちゃった
.
どこぉ~姫ちゃーん


(勇者だっつーの)

すると、だんだん声が遠くなっていって。

(ふぅ~めっちゃ疲れた鬼に捕まって命令という名のパシリみたいなのをやらされるなんてまっぴらゴメンだ男としてのプライドが潰れてしまう、さすがにそれは避けたい)

でも、ずっとここにいてもバレるのは時間の問題だ「早く何処かへ移動しなくては何処か人けのない所へ…あっ」記憶の中を探しているとある所へと辿り着く。

(1つだけ、いい所があった鬼から逃げるに最適な
場所が)

北山
こうなったら行くしかないっしょ


小さく呟きロッカーを出て向かう先の方角へと足を進めた着いた場所は図書室、無事に誰にも見つからずに来れ安心し。

(これで少しは休める、いや待てよ)

用心には用心を重ね、そぉーっと静かに扉を開け中を伺うように足を踏み入れれば人の出入りが少ない図書室だけど隠れる場所は沢山ある以前ここに迷いこんだときは亀梨先輩って人にしか会わなかったから。

北山
んっ?あれあれ


俺は我が目を疑った「マジでか!?」そっと忍び足で奥にある、あのふかふかなソファーへ近づくと。

亀梨
まだかなぁ~絶対ここに来るはずなんだよね俺の勘じゃ


(げっ!?)

そこには先着が1人その亀梨先輩がソファーに座り誰かを待っていたんだ「これじゃあ行けない、どうしよう」思いながら、ふと腕に付いている腕章へと目がいき。

(赤?ってことは…)

北山
あぁーっ
亀梨
姫、やっぱり来たんだ


笑顔でそう言う亀梨くん「えっ、待ち人って俺だったんすか」

北山
か、か、亀梨先輩!?どうして


泥棒か警察かの区別は腕に付けている腕章の色で
分かることになっていた、つまり…

亀梨
覚えててくれたんだ、すっごく嬉しい


本当に物凄く嬉しそうに微笑んでいる。

(名前を覚えていただけで、そんなに喜ぶ?失礼だけど先輩バカなの?つうか昨日のことだし忘れるわけないじゃん)

が、先輩はこの後もっと驚くべき行動を起こし俺は驚愕してしまう事になる思いもしなかったことで…




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