明けて翌日、今日は新入生歓迎会の日。
昨日、あれから俺は藤ケ谷にこっぴどく怒られて
しまい。
(あはっ、ご名答)
(ガミガミ、ガミガミ、やたらと怒鳴っていたけれど要はさ、あの亀梨先輩とやらに二度と近づくなって事なんだよな)
(どうして結構いい人だった気がしたよ何が気に食わないんだろ藤ケ谷は、だって俺が勝手に寝てしまったのに許してくれたし悪い人ではないと思う)
チラッと横尾さんの目が、藤ケ谷の方を向く。
(てかもう会うことはないと思うし怒られるのは嫌だったけど約束通り帰りにカツサンドを奢ってもらったから、どうでもいいやもう)
投げやりなポジティブ…
(捕まらなきゃいいんだろ)
(お前にも捕まらねぇよ足には自信があるんだ)
意味もなく気合いを入れている自分。
(そう今日は伝統だか何だか知らないが、鬼ごっこ?なんてもんを歓迎会でやってそんでもって俺は逃げるポジションってわけ、はぁ~そりゃショックだった、だから昨日あんなことを今でも本当は嫌なんだけど)
なってしまったものはしょうがない、そう思うしかなく内心ため息を吐き学校へと向かう。
そして教室で自分の机にうつ伏し気落ちした気分でいると、ツンツンツン何やら肩に違和感を感じ顔を上げれば。
ニカが自信ありげにそう言って「んだよ、そのやる気満々の表情は嫌味?」
俺は、そっぽを向き藤ケ谷や横尾さんニカに言葉を吐く。
(周りから見れば八つ当たりしているように見えるかもしれないけれど、そんなのどうだったっていい)
が、カッコいいというニカの言葉に過敏に反応し「そっ、そう?」思わず俺は聞き返す。
(逃げ切れるとカッコいいのか、なるほど俺「カッコいい」って言われてみたい)
(だったら頑張れる気がするな、そう捉える事もできるんだと1つ学んだ気がした断然やる気が出てきたぞ)
(そこまでバカじゃない)
(そういえば俺、途中で飛び出しちゃったから説明を聞いていなかったんだっけ)
俺は目が点になり、瞳をパチクリさせてしまう。
藤ケ谷は「はぁ~」と溜め息を吐き、やれやれといった顔をし。
(屋上で河合やお前らと話をしてたとき聞いたから)
(そこら辺の小学生がやっている、ただの鬼ごっこ
じゃない?ふむふむ、なるほどって分かんねぇよ
全然)
俺は、コクリと頷いた。
(それは、ちょっと目の色が変わってしまうかもしれないな俺けっこう物に釣られるタイプだから、そういうのに弱いし)
「1人だけ?」ここまでは理解できた?っと、念を押すように藤ケ谷が聞く。
(げっ、まっぴらゴメンだ、んっ?待てよ逃亡者は
ただ逃げるだけなのか賞品は無いの)
疑問を言葉に出し言ってみた「もし無かったら不公平だ」そう思い。
俺の瞳がキラキラと輝く希望を見出だしたかの如く
俺は手でガッツポーズを決め大声で叫ぶ。
(そんな特権があるのなら最初っから言えよ、藤ケ谷ったら勿体ぶりやがってさ)
すると、喜んでいる俺の肩に藤ケ谷が手を置いて。
ふふふっと、口角を上げ妖しげに笑い「不吉なことを言うな呪いの言葉みたいに」
(絶対に捕まるわけにはいかない)
(卑怯すぎる脅すにも程がある)
急に割り込んできたニカに、正直に答えたらガラッと扉が開き。
先生が入って来て、いよいよ新入生歓迎会が始まる
・藤ケ谷side
俺達は、それぞれが前を見つめ思うところは多少のズレがあるものの今日という日を次へのステップにしようと気合いを込めた瞳で担任の次の言葉を待った。
ざわざわざわ、ざわつく教室内「パンパンパン」
先生が手を叩き。
(はっ?警察と泥棒、それってケイドロだろ)
互いに人質を取り合い最終的には多い方が勝ち、というのが正式なやり方。くわえて双方のチームには自分たちの陣地があり人質となっている仲間にタッチしたら助け出すことも出来る、しかし歓迎会では
最初っから人質候補に選ばれた生徒が敵陣の真っ只中へ放り出され逃げ惑うことになり、仲間を助けたければ自ら飛び込んで行けというもの。
もちろん、それで捕まってしまったら人質となるのは必然。その選ばれた人質候補の中に北山がいた、いや初めに決めた〈逃亡者〉あれが人質候補だったんだ。
(なんだよそれ俺には関係ない、それよりどうする)
チーム分けはクラスごとにしてあり、挙げ句に1年の殆どが泥棒で。
(その自信は、どこから来るんだ?)
(だといいんだけどな)
が、不安を残し新入生歓迎会は始まってしまう。
(こうなったら北山を信じるしかない、いざという
ときには)
もし誰かに捕まってしまったら殴り合ってでも護り抜く覚悟でいた彼奴の貞操を、だがそこには思わぬ結末が待っていたんだ予想だにしていなかった。
・北山side
ぞろぞろ、一斉に移動してく全校生徒たち。その中でニカが俺の傍まで寄って来て。
ムッと頬を膨らませ両肩に手を乗せ妙に顔を近づけてそう言った「意味が分からない」
が、適当に「はいはい」と返事をし聞き流し。
(つうか誰かに捕まったりするようなヘマ、俺がするわけないじゃん、そんなふうに甘く見られているとはな)
心の中で深く溜め息を吐く「俺は誰にも捕まらない必ず生き残ってみせる、そして念願のお肉を1年分をGetしてやるんだ、そしたらカッコよさがアップし一石二鳥じゃね」
自然と口元が緩み、そんな自分を心配そうに見つめている横尾さんと藤ケ谷。
(大丈夫、大丈夫だって二人とも)
それから、校庭に集合したあと俺達はチームごとに分けられ人質候補は体育館へ連れて行かれた。
そこで…
「うわっ、可愛い」俺はトッツーと出会う。
(あっ、そうだった主権は彼奴らだっけか)
(本当に知れ渡っているんだな俺の名、あんまり嬉しくはないけれど)
しかし、のんびり寛げたのはここまでで、いざ始まってみると他の人のことなど構ってはいられず。
はぁはぁと息を上げ逃げまくる俺たち「完璧、甘く見ていた」こんなのケイドロでも鬼ごっこでもない
うおぉーっと馬鹿げたことを言いながら、背後から追ってくる鬼さん達、いや警察?「こんな警察いないわ、なんじゃ!?あの集団は」
始まってから30分、全速力で逃げている状態が
続いている。
(小さい言うな)
(ダダダッ、あり得ない、こんなの、ぜーったい)
さすがに、全校生徒が参加となると厄介で。
(頑張らなくていいから、はぁはぁ…くっ)
獲物を追う目つきは野生を越えていて、それほど
迫力が半端ないってわけだけど。
(あとさっきから「姫、姫」なんて声が聞こえてくるが、もしかして逃亡者は皆そう呼ばれているのか?だとしたらセンスの無さにビックリだ、もっとこうほら勇者とか言って欲しい。
あれ?勇者って響きなんか好きかもしんねぇな姫なんて弱っちぃ呼び方より断然、勇者の方が強く偉大な感じがするし)
って呑気に考えている余裕なんてなかった「あっ」と我に返り、すぐさまケイドロ鬼ごっこに集中し。すると向こうから見たことがあるシルエットが現れ。
(あれって、まさか…)
(副会長の大倉じゃん、なんか怪しげにニヤついて
いる!?あんな奴だっけか)
ダダダダッ、初めの印象とはだいぶ違う雰囲気に
俺は即行、逃げに入り。
(その顔が怖いんだよ)
千賀の声が聞こえた気がした。
(ハァハァ、はぁ、ここは地獄か、ちっ)
(生徒会長の内博貴、俺の唇を奪ったやつ)
キッと、その顔を睨みつける。
(はっ?)
とたん、ドヤドヤと集まって来る生徒たち向こうが動き出すと同時に俺も走り出す。
(勘弁してくれ、もう…)
ダダダダッ、曲がり角を巧みに使って空き教室へと入り念のため掃除道具がいくつか置かれていたロッカーの中へ逃げ込み。
(勇者だっつーの)
すると、だんだん声が遠くなっていって。
(ふぅ~めっちゃ疲れた鬼に捕まって命令という名のパシリみたいなのをやらされるなんてまっぴらゴメンだ男としてのプライドが潰れてしまう、さすがにそれは避けたい)
でも、ずっとここにいてもバレるのは時間の問題だ「早く何処かへ移動しなくては何処か人けのない所へ…あっ」記憶の中を探しているとある所へと辿り着く。
(1つだけ、いい所があった鬼から逃げるに最適な
場所が)
小さく呟きロッカーを出て向かう先の方角へと足を進めた着いた場所は図書室、無事に誰にも見つからずに来れ安心し。
(これで少しは休める、いや待てよ)
用心には用心を重ね、そぉーっと静かに扉を開け中を伺うように足を踏み入れれば人の出入りが少ない図書室だけど隠れる場所は沢山ある以前ここに迷いこんだときは亀梨先輩って人にしか会わなかったから。
俺は我が目を疑った「マジでか!?」そっと忍び足で奥にある、あのふかふかなソファーへ近づくと。
(げっ!?)
そこには先着が1人その亀梨先輩がソファーに座り誰かを待っていたんだ「これじゃあ行けない、どうしよう」思いながら、ふと腕に付いている腕章へと目がいき。
(赤?ってことは…)
笑顔でそう言う亀梨くん「えっ、待ち人って俺だったんすか」
泥棒か警察かの区別は腕に付けている腕章の色で
分かることになっていた、つまり…
本当に物凄く嬉しそうに微笑んでいる。
(名前を覚えていただけで、そんなに喜ぶ?失礼だけど先輩バカなの?つうか昨日のことだし忘れるわけないじゃん)
が、先輩はこの後もっと驚くべき行動を起こし俺は驚愕してしまう事になる思いもしなかったことで…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!