「ガヤガヤ、ガヤガヤ」
入学式が行われる体育館で座る席は、あいうえお順ということで、ちょっと離れた位置からチラチラとこっちを見ている藤ケ谷。
(うわっ)
「んっ?」ざわざわざわ、ざわつく場内なぜか新入生も落ち着きをなくし。
「知らないの」っと隣りのやつが声を掛けて来て。
(意味…分かんない)
とたん物凄い悲鳴が響き渡って、現れたホストみたいな連中。
(なるほど、しっかし眠い…さっき寝れなかったからか)「そういう問題?」横尾さんに突っ込まれそうだ
(ガハハッ…)
ツンツン、つんっ、誰かが俺を突っついている…「ん~眠いんだよ、ほっといてくれ」それから、どれくらい経ったのか?
自分を呼ぶ声が聞こえ目を覚ませば…「うおっち」目の前には呆れ顔の五関。
それから教室へ戻って席につくと、すかさず藤ケ谷がやって来て。
ジロッと俺を見る藤ヶ谷の視線、その横で苦笑いしている横尾さん「はぁ~マジで先が思いやられる」昔っから、めっちゃSのくせして俺に近づくやつは尽く排除して来た藤ケ谷。
(お陰で俺、友だち少ないの本当に藤ヶ谷ってよく
分かんないやつ)
こうしてスタートした俺達の高校生活、期待と不安を胸に。しかしそこには様々な人たちとの出会いが待っていたんだ、いいにつけ悪いにつけ…
・横尾side
小さなミツが、泣いている。
何故だか昔から、俺のこと名前で呼ばないミツ。
「そんなことないよ」頭をポンポンと優しく撫でる
(それはね…‥ジリジリジリ、ジリィーッ)
(あっ、そうだった)
学校から帰っても、機嫌が直らない太輔を俺は仕方なく家へと連れて帰り。
(あはっ、殆んど太輔さんが入り浸っていますけど)
(物心ついた頃からいつも一緒だったミツ、ちっちゃくて可愛くて俺は大好きだったミツは自分にとって初恋みたいなもん)
だけどある日、そうあれは幼稚園の入園式のとき。
聞こえて来た声に振り向くとちび黒サンボが1人…いや色黒で髪の毛クルクル天然パーマの太輔がいたんだ、それから何かというとミツに絡んで来てミツも嫌々言いながらも太輔が大好きで。
(見ていれば分かる、俺ね自分の気持ちを自覚すると同時に失恋したんだ)
小学校に入った頃から少しずつ頭角を表していった太輔、独特のオーラと優しさで女の子の人気の的となりミツは、それが気に食わなかったみたい。いわゆる嫉妬、本人は自覚してないけれど自分の誕生日に女の子と会っていた太輔を暫くは怒っていたっけ
(まっ、当の彼奴はニヤニヤと笑い喜んでいたけどね確信犯、それから益々ミツへのドSぶりを発揮して今日に至っているってわけ)
それは、今から2年前。
「ふたり別々にミツを呼び出し選ばれた方が勝ち、文句は言いっこなし」
結果、ミツは太輔を選んだ。
いや、俺は誘わなかったんだミツにどちらかを選ばせるなんて酷すぎて出来るわけがない。きっと悩み苦しんで…だから、そんな日が来ないよう自分から仕掛けた。
(ミツ、俺、ミツの笑顔が大好きだからその微笑みは絶やさないでいて欲しい太輔との初デート嬉しそうだったよね)
いつもはドSな太輔も、あの日だけは優しくミツは満面の笑みでそれに応えていたっけ俺には見せた事がない最高の笑顔を向け、そのとき決心したんだ。「太輔以外のやつには決してミツを渡しはしないと」
桜台高校の生徒会…気に入った生徒を自分らのモノにし、ある意味ハーレムみたいな空間を作り上げていると聞く。
コクンと頷き合い、俺と太輔は決意も新たにミツの家へと向かった。
そしてまた、新たな1日が始まる。
・北山side
次の日、俺は約束した通り藤ケ谷と横尾さんの3人で一緒に登校した。
(しかし昨日は散々な1日だった、なんかよく分からないことを言う二階堂と友達?みたいにもなったし)
な~んて微笑みながら言ったら、藤ケ谷が急に立ち止まって。
おもむろにグイッと横尾さんの手から、そのシャツを奪い取ると。
いきなり自分のを脱ぎ始め、おかしな行動を起こす藤ケ谷を俺は慌てて周囲に見えないように手で隠し
(道端で脱ぐとかバカなの?)
今の時間帯、学生が通学中で「ほれ見ろ、あっちこち人が物珍しそうに見ているじゃんガン見している奴もいる」
そんな俺の心配をよそに、藤ケ谷は脱いだシャツを鞄の中へと入れ代わりにさっき俺が横尾さんに返したばかりのシャツに着替えると。
(へっ?)
唖然としている俺に「どう似合う?」
(いやいや、そう言われても困ります藤ケ谷さん)
「なに?似合わない」何故だか、仁王立ちで聞いてくる。
(えっ、どしたの?ほんと)
(あっ、そうか返事)
「てか、わざわざそんなこと俺に聞かなくてもいいのに」チラッと藤ケ谷に目線を向けたら、何故だか固まっていて (どした?)「おーい」呼んでも返事をしない (さっきから、こいつ変だ)
固まって動かない姿をジッと見つめ数秒後、ハッと我に返った藤ケ谷は顔を真っ赤にし俯き。
だから様子が変だったんだ、そう納得をする。
藤ケ谷はそう言って俺の身長くらいの高さまで屈み 「嫌み?チッ」が、とにかく今は熱があるかどうかを確かめたいと手を伸ばし。
(…‥あれ?熱くない俺のオデコと比べても)
地面に置いてた鞄を拾い上げ藤ケ谷は歩き始め続けて横尾さんも。
その背中を追い3人して学校へと向かう…が、校門の前まで来たとき何故だか足を止め「あっ、そうだ」思い出したかのように言葉を吐き。
(もしかして俺が奴らに脅されるとでも思ちゃってるわけ?例えば「あれ買ってこい」「金を出せ」みたいなことを言われるとか、いや待て金を出せはないな見かけホストみたいな連中だったしお金は持っているっポイ…つうか自らストレスを溜めに行くようなこと、いくら俺でもしたりはしないさ)
(そもそも、ばったり偶然に出くわすなんてこと滅多にないんじゃないか?こいつら、たまに変なことを言うな)
ざわざわざわっ、教室に入り自分の席へと着いたら同時にドドドドッと地響きのような音がし。
語尾にハートマークが付きそうな声で二階堂が勢いよく抱きついて来て。
(ここは知らない振りマジで今の気持ちSOSでいっぱいだ)
(はあっ?なにアホらしいことを言っているんだ)
俺は、まだ抱きついて離れないこいつに「放せ」と言わんばかりに抵抗する。
(理解不能だバカには通じないみたい呆れて物も言えないとは、まさにこのこと)
生徒会より、こいつの方がストレスが溜まる気がする。
ドスッと、音と共に俺は藤ケ谷の腕の中へスッポリ収まっていて。
(なんか近くで変な言葉が聞こえた気が耳鼻科へ行った方がいいかな?はははっ、愛だと?こいつ本当に意味わかんないことを抜かす実は宇宙人なんじゃ?あぁ~面倒くさい)
ポンポンと俺の頭を優しく撫で藤ケ谷が言う、それを聞いたニカが。
嫌だ嫌だと駄々をコネる二階堂高嗣「ウザい…」
が、藤ケ谷の一言でピタッと静かになり、正確には黙らせたんだけど。
(すっげ~こわっ…こいつは、いつも俺のことになると何だかなぁ人格が変わってしまい、いくら幼馴染みだからといって過保護すぎじゃね?)
ガタンと椅子を俺の方へと向け再び喋りだす二階堂
(また生徒会の話し?はぁ…)
(俺は、まったく興味がなかったけど)
「ふふんっ」と鼻を鳴らし隣で笑っている藤ケ谷、横尾さんは苦笑いしている。
(五関から聞いたから、ははっ)
(虜ってなに?)
「はぁ~」横尾さんが後ろで大きく溜め息を吐く、するとニカが。
(なに当たり前なことを言っているんだ、今の話しに関係がある?やっぱり、こいつ変なやつ)
(全く聞いたことがない言葉ホモ?バイ?)
初めて知る単語に俺は疑問を抱く「ミツ、知らないの?」そんな俺に二階堂はポカーンとした顔で目を見開き驚いててよ。
(んなビックリされることか俺って時代遅れ?)
急に不安になり「藤ケ谷は分かるのか?」そう話を振ってみたんだが、こいつは俺と同じに育ってきたから知っているはずはないし横尾さんもって思っていたのに。
「マジで!?知ってたの」俺は、少し大袈裟に驚いてしまう。
(どうして俺はダメなんだよ?みんな知っていることなのに横尾さんだって不公平じゃん俺だけ知らないなんてさ、ちょっと…いや、かなり嫌だし腹が立つ
こうなったら何がなんでも聞いてやる、んっ?頼むときってどうすればいいんだっけか?まっ、適当でいいや)
俺は藤ケ谷の袖を掴み顔を上げその瞳を見つめながらお願いした、すると何故だか言葉を詰まらせ次の瞬間「ぼわぁ~っ」と顔を真っ赤に染め、手で口を押さえ。
(もしかして、しつこすぎて怒っているのか?だったらヤバい喧嘩になる前に早めに謝っておいたほうがいいかもしれない)
藤ケ谷を敵に回したら生きては行けない、だからこうやって潔く謝る手段を選んだ。しかし、こいつは「はぁ~」と深く溜め息を吐き。
参ったとでもいうように「えっ、教えてくれるの」俺はキョトンとしてしまい、なんか予想とは違っていたから。
(襲うって…あっ、あれは)
それまで、俺らの話を聞いていた二階堂がイキなり割り込んできて。
(あぁ~話がややこしくなる)
横尾さんに言われ仕方なく大人しくなる二階堂、
話を続ける藤ケ谷。
そして、最後に「もう少し危機感をもて」そう付け加えた。
(確かによく考えてみれば、あれは「からかう」にしてはやり過ぎだった気がするけど俺が女だったら、それだけでは済まされなくなる「嫌がらせ?」あ~もう分かんねぇや)
これ以上、俺の頭で考えても理解できそうにない
から聞いた。すると…
(はあっ?ちょっと待て)
「あぁーいうのって平気で人をからかう奴が沢山いるってことだよな」藤ケ谷は、ちゃんと俺に分かるように教えてくれ。
(面白がって人のズボンを脱がそうとする、そういった奴らがここに!?)
俺は、とんでもない所に入学してしまったんだと
心底そう思う。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!