私は太宰さんと気まずい時間を過ごしていると、
何時の間にか訓練場に着いていた。
そして太宰さんは私の後ろに回り、
私の背中を思い切り足で蹴って
訓練場へと一歩押しやった。
私は蹴られても気にせず、
こればかりはと太宰さんにしつこく聞いた。
もし仮に相手が知らない人じゃなくても、
最近仲良くなったばかりの子だったりすると
とても気まずいからだ。
縦令訓練だとしても殴り合いをするのは
流石に気が引ける。
太宰さんは私の話に被せるように言い、
何故か溜息をつき、
呆れたような顔をして、此方を見ていた。
なんだその反応??
太宰さんは少しの間、頭を抱えてから
先に訓練場に入って行き、
私に中に入るよう手招きしてきた。
…出来れば頭を抱えたりと
そんなに深刻に捉えないで欲しいかったな… 。
私はそんな複雑な気持ちを抱き、
渋々訓練場に入った。
そして太宰さんは、
私が完全に訓練場の中に入ったと分かった途端、
さりげなく外に出て行き、
ガチャン!!と、
重い扉を力強く閉めてしまった。
私は吃驚して太宰さんを呼ぶも、
太宰さんはそれだけ言い放つと
黙ってしまった。
そして太宰さんのだと思われる足音が
段々遠のいて行った。
多分朝ご飯を食べに行ったのだろう。
閑散とした訓練場の中で、一人取り残された私は
もう苛立ちより疲れが勝ってしまい、
外には出ず、そのままぐったりと地面に座り込んだ。
そうブツブツと独り言を言っていると、
奥の方から見知った声が聞こえてきた。
吃驚して振り返ると、
太宰さんの同僚である中也さんが
気だるそうに頭を掻きながら、此方へ歩いてきた。
相手…中也さんか……
中也さんは正直言って
力だけでは太宰さんの何倍も強い。
そしてそんなに面識がある訳でもないので、
性格があまり分からない。
だが全体的に気性が荒いので
下手したら半殺しにされかねないだろう。
もう本当なんて事をしてくれてんのかなあの上司は。
私はやっぱり疲れよりも苛立ちが勝り、
太宰さんにキレた。
そしてもうここには居ないが、
腹立つ上司に今出来る精一杯の怒りを送った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!