大ちゃん、ごめん。
俺、ずっと大ちゃんに言えなかったことがあるんだ。
一年前___
俺が高校2年生のとき。
その日は朝から土砂降りだった。
雨は夕方まで続いていて
傘をさして帰った帰り道の途中
道端に置かれたダンボールと
その前にしゃがみこむ
うちの高校の制服を着た女子
何をしているのか気になってよく見ていると
ダンボールの中には「ミャーミャー」とか細い声で鳴く子猫。
そして、その子はダンボールに
雨がかからないよう傘を立て、自分は濡れながら家へと帰っていった。
俺はそれを遠くから見ているだけだった。
翌日の朝も、その子は猫の様子を見ていて
「ちびすけっ、昨日は大丈夫だった?」
“ちびすけ”なんて名前つけちゃって
まるで自分の猫のように可愛いがっていた。
ときには、近所のコンビニでキャットフードと牛乳を買って与えたり
寒さから守るために暖かい毛布を敷いてあげたりして
俺は部活の帰り道、それを見るのが日課のようになった。
まだ、話したこともなく
ましてや名前すら知らないあの子。
だけど俺には分かった、すごく優しいんだろうって。
しかし、2週間ほど過ぎた頃
子猫は死んでしまった。
その時彼女は
「ごめんね。うちで飼ってあげられなくて。」と
ずっとずっと泣いていた。
そして、その場所に一輪の花を置いた彼女。
あの子の悲しみがすごく伝わってきて
俺まで苦しかった。
それから数日が経ち
あの子と初めて学校ですれ違うこととなる。
隣の友達と笑いながらおしゃべりしていた。
当然ながら、こっちを見てもくれない。
それなのに、俺はその子とすれ違うたび目で追ってまう。
あの日から、彼女は俺の中で“特別な存在”となっていった。
そして、3年へと進級しあの子と出会った。
きっかけは
そう、大ちゃんのラブレター
まさか話すことが出来るなんて
思ってもいなかった。
その子の名前はあなたちゃんだってさ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!