しまった。
僕は、小さな段差で踏み外し、階段から落ちた。
こういう時、やけに時間が長く感じる。
何でこんな所で、何で今、最悪だ────
近くに掴める物もない。
怪我…したら、いちにぃに迷惑かけるな…
体が勝手に目を閉じる。
そのせいか、見ていないからなのか、
………おかしい。
いつまで経っても衝撃が来ない。
しかも、人のような体温すら感じる。
誰か助けてくれたのか…と、目を開けると。
僕がこんなに戸惑っている理由。
それは…
MC.L.B
とは、僕のMC名のことだ。
…いやいや!!そんなことより何で知ってんの!?
あの猫山あなたが!!
先程の冷静さはどこに行ったんだ、
とも言わんばかりのテンションの上がり様だ。
そう、僕が、悔しくて、嫌って、ほんの少し、
いや、ほんのほんの、少し、だけだけど、
…惹かれた…彼女は、
バスターブロスのファンだった。
彼女は見掛けに寄らず、グイグイと来る性格で、
『ご迷惑で無いのなら握手を』
『サインとかも貰ったら嫌ですか』
…とか、控えめに聞いてくるけど、
言ってることは、迷惑ファンとやってること変わりない…とは言えない。
だから、出来るだけ、大人(14歳)の対応で応えた。
そして結局帰り際また会ってしまい、
少し話していた。
少し立ち止まって、顔を見合わせる。
冷たく、酷な言葉を、思わず掛けてしまうけど、
それでも、彼女は『なんだそんなことか』
と言わんばかりの顔で、少し微笑んだ。
───調べて、彼女は、冷酷だと思ってた。
でも、意外に、感情、表情豊かで、
近付ける顔に僕が赤くなっていたのも、
天然な彼女は、気付かないだろう。
でも、それでも、これなら、ゆっくり。
彼女と過ごす日々が、楽しみになった。
END
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!