第44話

   〃   (2)
1,448
2020/03/04 12:00
山田 三郎
え、ぅわっ!!
しまった。


僕は、小さな段差で踏み外し、階段から落ちた。


こういう時、やけに時間が長く感じる。


何でこんな所で、何で今、最悪だ────
近くに掴める物もない。


怪我…したら、いちにぃに迷惑かけるな…
??
!!
体が勝手に目を閉じる。


そのせいか、見ていないからなのか、


………おかしい。


いつまで経っても衝撃が来ない。
しかも、人のような体温すら感じる。


誰か助けてくれたのか…と、目を開けると。
??
大丈夫…ですか?
山田 三郎
はい、すみませ…!?
??
…え?あ、すみません、
今、降ろしますね。
山田 三郎
えっと…あ、ど、どうも…
僕がこんなに戸惑っている理由。
それは…
猫山 YOU
あ、の…もしかして、
〝MC.L.B〟…ですよね!
MC.L.Bエムシーリトルブラザー


とは、僕のMC名のことだ。


…いやいや!!そんなことより何で知ってんの!?


あの猫山あなたが!!
猫山 YOU
わ、わわ…何でこの学校に…!!
いや、お怪我とかありませんか!?
先程の冷静さはどこに行ったんだ、


とも言わんばかりのテンションの上がり様だ。
山田 三郎
はい…大丈夫です。
猫山 YOU
わ、わ、たし、
貴方のチームのファンです!!
山田 三郎
は?………は?
そう、僕が、悔しくて、嫌って、ほんの少し、


いや、ほんのほんの、少し、だけだけど、


…惹かれた…彼女は、


バスターブロスのファンだった。
彼女は見掛けに寄らず、グイグイと来る性格で、
『ご迷惑で無いのなら握手を』


『サインとかも貰ったら嫌ですか』
…とか、控えめに聞いてくるけど、


言ってることは、迷惑ファンとやってること変わりない…とは言えない。
だから、出来るだけ、大人(14歳)の対応で応えた。


そして結局帰り際また会ってしまい、


少し話していた。
猫山 YOU
あ、の、すみませんでした!さっきの…出会い頭に失礼なことを…!
山田 三郎
いや、こっちは助けて貰ったし。
てか…同い年だよね?なんで敬語?
猫山 YOU
いや、憧れのバスブロさんだったんで…その…驚きすぎて…なんか…
山田 三郎
ふぅん…ま、僕は君のこと嫌いだけどね。
猫山 YOU
あはは…そうですよね…気持ち悪いですよね…
山田 三郎
…驚かないの?
猫山 YOU
そりゃぁ、辛いですけど…
出会ってファンです、って言われて、
猫山 YOU
気持ち悪くならない方なんて居ませんよ…
山田 三郎
…あぁ…それは別に気にしてない。
猫山 YOU
え!?違うんですか!?
山田 三郎
ぼ、く、が、言ってるのは。
山田 三郎
君のその…何、能力?
猫山 YOU
の、能力?
山田 三郎
だって、何でも出来るでしょ。
少し立ち止まって、顔を見合わせる。


冷たく、酷な言葉を、思わず掛けてしまうけど、


それでも、彼女は『なんだそんなことか』


と言わんばかりの顔で、少し微笑んだ。
猫山 YOU
…山田さん。
猫山 YOU
私ね、憧れてるんですよ。
山田 三郎
さっき聞いたよ。
猫山 YOU
違います、あ、いや、
違わないんですけど。
猫山 YOU
私は、ラップに…憧れてるんです。
山田 三郎
…だから?
猫山 YOU
私はラップが出来ません。
猫山 YOU
分かりますか?
〝何でも出来る有名な私〟
は唯一ラップが出来ないんです。
猫山 YOU
でも、山田さんは、
それが出来るんです!!
猫山 YOU
しかもここ、イケブクロの代表で、
最強のチームのメンバーです!!
猫山 YOU
それがどれだけ凄い人か分かりますか?
山田 三郎
…いや、実感はあんま無いけどさ…
山田 三郎
でも、ありがとう。ちょっと嬉しい。
…あと、ごめん。
猫山 YOU
え?
山田 三郎
嫌いとか、相手のこと少し知っただけで言うとか。僕、最低じゃん。
猫山 YOU
そ、そんなこと…
山田 三郎
初めて僕が能力的なので負けたから…悔しかったんだよ。
山田 三郎
あと…羨ましかったから。
山田 三郎
ちょっと…なんでニヤけてんの。
猫山 YOU
ハッ!!ごめんなさい!!
なんだか…とても可愛らしくて…
山田 三郎
可愛くない!!
猫山 YOU
ふふ、すみません(笑)
山田 三郎
その…さ、君、結構気が合いそうだから、えっと…これからも、
山田 三郎
仲良くしてくれる?
猫山 YOU
断る理由が見つかりません…!!
山田 三郎
ちょ、泣かないでよ!?
猫山 YOU
あと私のことはあなたと呼んでください!
山田 三郎
は!?急すぎだし、それ僕のこと三郎って呼ぶんだよ!?あと敬語無し!!
猫山 YOU
えぇ…!!困ります…!!


───調べて、彼女は、冷酷だと思ってた。


でも、意外に、感情、表情豊かで、


近付ける顔に僕が赤くなっていたのも、


天然な彼女は、気付かないだろう。
でも、それでも、これなら、ゆっくり。




彼女と過ごす日々が、楽しみになった。







END

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