私の心配とは裏腹に、彼が連れていってくれたのは 駅のすぐそばにある居酒屋だった。
“ヒロ”と名乗った男は、ビールジョッキを傾けながら 真剣に私の話を聞いてくれている。
酔っているせいか、可愛げのない言葉を口にしてしまう。
“そういう”仕事をしているのだから、仕方のないことだということは分かっている。
しかし、軽々しいヒロの言葉が、妙に 癪に触った。
彼はそう言って、そっと私の眼鏡を外した。
ぼやけた視界に 男の顔が写りこむ。
“からかわれているだけ”なんてことは分かっているはずなのに、どうしてこんなにも泣きたくなるのだろう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!