輪をまわしてゆく少年の姿は、やがて白い路の方に消えてしまいました。けれど、太郎はいつまでも立って、その行方を見守っていました。
太郎は、「だれだろう。」と、その少年のことを考えました。いつこの村へ越してきたのだろう? それとも遠い町の方から、遊びにきたのだろうかと思いました。
明くる日の午後、太郎はまた圃の中に出てみました。すると、ちょうど昨日と同じ時刻に、輪の鳴る音が聞こえてきました。太郎はかなたの往来を見ますと、少年が二つの輪をまわして、走ってきました。その輪は金色に輝やいて見えました。少年はその往来を過ぎるときに、こちらを向いて、昨日よりもいっそう懐しげに、微笑んだのであります。そして、なにかいいたげなようすをして、ちょっとくびをかしげましたが、ついそのままいってしまいました。
太郎は、圃の中に立って、しょんぼりとして、少年の行方を見送くりました。いつしかその姿は、白い路のかなたに消えてしまったのです。けれど、いつまでもその少年の白い顔と、微笑とが太郎の目に残っていて、取れませんでした。
「いったい、だれだろう。」と、太郎は不思議に思えてなりませんでした。いままで一度ども見たことがない少年だけれど、なんとなくいちばん親しい友だちのような気がしてならなかったのです。
明日ばかりは、ものをいってお友だちになろうと、いろいろ空想を描きました。やがて、西の空が赤くなって、日暮方になりましたから、太郎は家の中に入りました。
その晩、太郎は母親に向かって、二日も同じ時刻に、金の輪をまわして走っている少年のことを語りました。母親は信じませんでした。
太郎は、少年と友だちになって、自分は少年から金の輪を一つ分けてもらって、往来の上を二人でどこまでも走ってゆく夢を見みました。そして、いつしか二人は、赤い夕焼け空の中に入ってしまった夢を見ました。
明くる日から、太郎はまた熱が出ました。そして、二、三日にちめに七つで亡くなりました。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。