『親譲の無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。
小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて
一週間ほど腰を抜かした事がある。
なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。
別段深い理由でもない。
新築の二階から首を出していたら、
同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、
そこから飛び降りる事は出来まい。
弱虫やーい。と囃したからである。
小使に負ぶさって帰って来た時、
おやじが大きな眼をして二階ぐらいから飛び降りて
腰を抜かす奴があるかと云ったから、
この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。』
『親類のものから西洋製のナイフを貰って
奇麗な刃を日に翳して、友達に見せていたら、一人が
光る事は光るが切れそうもないと云った。
切れぬ事があるか、
何でも切ってみせると受け合った。
そんなら君の指を切ってみろと注文したから、
何だ指ぐらいこの通りだと
右の手の親指の甲こうをはすに切り込こんだ。
幸いナイフが小さいのと、親指の骨が堅かったので、
今だに親指は手に付いている。
しかし創痕は死ぬまで消えぬ。』
俺にもこんな時期があった。
一匹狼で、自分が正しいと思った道を進んでいた、
そんな時期が。
でも今はどうだ。
働いていた会社が潰れ、
不良に絡まれ盗みを働けと命令され、
それを行動に起こしてしまった。
俺も、こんな頃に戻りたい。
底に溜まったブランデーを胃に流し込んで、
俺は店を出た。
なけなしの金で、俺は坊っちゃんを買った。
なあ嬢ちゃん、俺、坊っちゃんみたいになれるかな。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。