第10話

夏の精霊
27
2019/04/19 10:57
10







ひまわりをかき分けるようにして進む。

道みたいなものはあって、そこを走ってはいるんだけど、
その両脇からひまわりが何本も生えているの。
だからそれで進みにくい......。
雛田未津羽
雛田未津羽
あ......
不意に開けた場所に出た。

そしてそこに、しのちゃんが居た。
私と目が合うと、さっきみたいに微笑ほほえんでくれる。
......嬉しそうに。
雛田未津羽
雛田未津羽
しのちゃん、久しぶりだね
山本しの
山本しの
うん......やっぱり来てくれたんだね
雛田未津羽
雛田未津羽
うん
どうやら、この子も私が2回目だと分かってるみたい。

ほんとの精霊だから、かな?

......香織さんは......、どうなんだろ。






山本しの
山本しの
ひまわりは持ってる?
雛田未津羽
雛田未津羽
うん
そう言って、カバンからひまわりを取り出す。
花びらやくきを傷つけないように、慎重しんちょうに。

取り出したのは、少し小さめのひまわり。

私は、これで過去ここに来た。
雛田未津羽
雛田未津羽
これ......ありがとう
山本しの
山本しの
......お礼を言うのはまだはやいよ。
ちゃんと、「現実向こう」に帰ってからにして
しのちゃんは、私が差し出したひまわりを受け取って、はっきりとそう言った。



......言われてみれば、ここで終わりってわけじゃないもんね。
お礼は、向こうに帰ってから、しっかりしよう。
山本しの
山本しの
でも、ちゃんと枯らさずに持ってきてくれた
のは、ありがとう
雛田未津羽
雛田未津羽
枯れてたら、向こうに帰れないって聞いたから
山本しの
山本しの
......帰れなくなったら、ここに来た意味も
ないもんね
彼女はそう言いながら、何かを探すように辺りを見回した。

そして──
山本しの
山本しの
......あった
小さくつぶやくと、1本のひまわりを切り取った。
山本しの
山本しの
はい、どうぞ
雛田未津羽
雛田未津羽
え、あ......ありがとう
山本しの
山本しの
じゃあまた、1ヶ月以内に、ここに来てね
雛田未津羽
雛田未津羽
うん......
そう答えると同時に、しのちゃんは、何度目かの微笑みを見せて、ひまわりの中に紛れていった。








残された私と、1本のひまわりは、ただそこに突っ立っているしか出来なかった。

しばらくして、お姉ちゃん、という聞きなれた声がした。
雛田葉月
雛田葉月
──お姉ちゃん?ど、どうしたの?
雛田未津羽
雛田未津羽
......葉月
葉月は、不思議そうな、心配そうな、そんな顔をしている。

それを見て、言葉が自然とでてきた。
雛田未津羽
雛田未津羽
また来ようね、ここに
雛田葉月
雛田葉月
......うん!
雛田未津羽
雛田未津羽
......帰ろっか
雛田葉月
雛田葉月
そうだね!
見上げた空は、群青に染まろうとしていた。

























―――――






あれから。


私は定期的にあのひまわり畑に行っている。
時々、葉月も一緒に。

そして、ひまわり畑でしのちゃんにひまわりを変えてもらっている。



しのちゃんは、いつも優しい微笑みで待っていてくれて、私を安心させてくれた。





葉月からは......、やっぱり、前と同じように作り笑顔を向けられることが多い。




......それは、仕方ないのは分かってた。
だって私は、葉月を、妹を、守ることのできるようなことを
まだしてない。










だから......。








8月が近づいた今が、最後のチャンス......。

















──そんなことを考えながら、玄関の葉月に声をかけた。
雛田未津羽
雛田未津羽
どこ行くの?
雛田葉月
雛田葉月
友達と遊ぶ約束してるんだ〜
雛田未津羽
雛田未津羽
そっか〜!気をつけてね
雛田葉月
雛田葉月
うん。いってきます!
雛田未津羽
雛田未津羽
いってらっしゃい!
......変わったところは、特にない。

でも、やっぱりぎこちない感じするんだよね......。




ということで、葉月に着いていきまーす。(!?)


多分、さっき言ってたことは嘘......なんだと思うんだ......。


だから、葉月に着いていって、助けられるなら助けたいなあ〜......って。



私はゆっくりとドアを開ける。
そこから辺りを見回してみるけど......うん、葉月は居なさそうだね......。


ドアの隙間すきまから素早く体を出して、ゆっくりとドアを閉める。
雛田未津羽
雛田未津羽
ふぅ......







何かあったら、ちゃんと、葉月を助ける。











......私は再び心にそう決めて、葉月のあとを追いかけた──。

































―――――





女子1「......あっ、ちゃんと来れたんだー」

女子2「遅いからどうしたのかと思ったじゃん!」
雛田葉月
雛田葉月
ご、ごめん......
葉月の向かった先に居たのは、3人組の女子。

仲良さそうに話してるし、友達かな......?




女子3「じゃー、行こっか♪」
雛田葉月
雛田葉月
......う、うん
そう言って葉月を含めた4人が向かったのは──






















──小さな公園だった。























......遊ぶっていくのは、嘘じゃなかったみたい......?



私の勘違いなのかな......?

でも多分、葉月はいじめられてて、それで......。






女子3「葉月ちゃん、いつもの......お願いね♪」
雛田葉月
雛田葉月
う、うん............あっ
──チャリンッ



......なにかの落ちる音が聞こえた。
静かな公園だからか、やけにひびく。




あれ、この音......小銭こぜに落とした時の音に似てる......?





そう思った私は、とっさに顔を戻し、葉月達の居る方を確認した。





女子2「もー、何してんのー?」

女子1「ほんっとどんくさいよね、あんた」
雛田葉月
雛田葉月
ご、ごめんね......
女子2「ほらー、はやくはやく!」





コンクリートの地面の上に、小銭が何枚か散らばっていて。

それを葉月が1人で拾っていた。

そして、他の3人は、その様子を見下ろして笑ってる。




なんで、一緒に拾おうとしないんだろう。
なんで、この人達は笑ってるんだろう?









ようやく小銭を全て拾い上げた葉月が、次にとった行動は、




雛田葉月
雛田葉月
......こ、今月は......これしか、なくて......





他の3人に、お金を渡すこと、だった。












女子3「すっくな!」

女子1「前より減ってんじゃん、何に使ったの?」
雛田葉月
雛田葉月
べ、別に使ったわけじゃ......
女子1「は?じゃあなんでこんなに減ってんだよ!
払えなくなったら死ねって言っただろうが!」
雛田葉月
雛田葉月
っ......










......これ、夢なのかな......?











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