10
ひまわりをかき分けるようにして進む。
道みたいなものはあって、そこを走ってはいるんだけど、
その両脇からひまわりが何本も生えているの。
だからそれで進みにくい......。
不意に開けた場所に出た。
そしてそこに、しのちゃんが居た。
私と目が合うと、さっきみたいに微笑んでくれる。
......嬉しそうに。
どうやら、この子も私が2回目だと分かってるみたい。
ほんとの精霊だから、かな?
......香織さんは......、どうなんだろ。
そう言って、カバンからひまわりを取り出す。
花びらや茎を傷つけないように、慎重に。
取り出したのは、少し小さめのひまわり。
私は、これで過去に来た。
しのちゃんは、私が差し出したひまわりを受け取って、はっきりとそう言った。
......言われてみれば、ここで終わりってわけじゃないもんね。
お礼は、向こうに帰ってから、しっかりしよう。
彼女はそう言いながら、何かを探すように辺りを見回した。
そして──
小さく呟くと、1本のひまわりを切り取った。
そう答えると同時に、しのちゃんは、何度目かの微笑みを見せて、ひまわりの中に紛れていった。
残された私と、1本のひまわりは、ただそこに突っ立っているしか出来なかった。
しばらくして、お姉ちゃん、という聞きなれた声がした。
葉月は、不思議そうな、心配そうな、そんな顔をしている。
それを見て、言葉が自然とでてきた。
見上げた空は、群青に染まろうとしていた。
―――――
あれから。
私は定期的にあのひまわり畑に行っている。
時々、葉月も一緒に。
そして、ひまわり畑でしのちゃんにひまわりを変えてもらっている。
しのちゃんは、いつも優しい微笑みで待っていてくれて、私を安心させてくれた。
葉月からは......、やっぱり、前と同じように作り笑顔を向けられることが多い。
......それは、仕方ないのは分かってた。
だって私は、葉月を、妹を、守ることのできるようなことを
まだしてない。
だから......。
8月が近づいた今が、最後のチャンス......。
──そんなことを考えながら、玄関の葉月に声をかけた。
......変わったところは、特にない。
でも、やっぱりぎこちない感じするんだよね......。
ということで、葉月に着いていきまーす。(!?)
多分、さっき言ってたことは嘘......なんだと思うんだ......。
だから、葉月に着いていって、助けられるなら助けたいなあ〜......って。
私はゆっくりとドアを開ける。
そこから辺りを見回してみるけど......うん、葉月は居なさそうだね......。
ドアの隙間から素早く体を出して、ゆっくりとドアを閉める。
何かあったら、ちゃんと、葉月を助ける。
......私は再び心にそう決めて、葉月のあとを追いかけた──。
―――――
女子1「......あっ、ちゃんと来れたんだー」
女子2「遅いからどうしたのかと思ったじゃん!」
葉月の向かった先に居たのは、3人組の女子。
仲良さそうに話してるし、友達かな......?
女子3「じゃー、行こっか♪」
そう言って葉月を含めた4人が向かったのは──
──小さな公園だった。
......遊ぶっていくのは、嘘じゃなかったみたい......?
私の勘違いなのかな......?
でも多分、葉月はいじめられてて、それで......。
女子3「葉月ちゃん、いつもの......お願いね♪」
──チャリンッ
......なにかの落ちる音が聞こえた。
静かな公園だからか、やけに響く。
あれ、この音......小銭落とした時の音に似てる......?
そう思った私は、とっさに顔を戻し、葉月達の居る方を確認した。
女子2「もー、何してんのー?」
女子1「ほんっとどんくさいよね、あんた」
女子2「ほらー、はやくはやく!」
コンクリートの地面の上に、小銭が何枚か散らばっていて。
それを葉月が1人で拾っていた。
そして、他の3人は、その様子を見下ろして笑ってる。
なんで、一緒に拾おうとしないんだろう。
なんで、この人達は笑ってるんだろう?
ようやく小銭を全て拾い上げた葉月が、次にとった行動は、
他の3人に、お金を渡すこと、だった。
女子3「すっくな!」
女子1「前より減ってんじゃん、何に使ったの?」
女子1「は?じゃあなんでこんなに減ってんだよ!
払えなくなったら死ねって言っただろうが!」
......これ、夢なのかな......?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。