先程置かれたカップを手にしてそう言うのは、香織の姉で、
麗華、と呼ばれている。
同じくこの店の店員。
今はこの3人で、この半年で訪れた「願いの叶う花」を求めた人々の話をしていた。
春と夏、それぞれに訪れた、ある2人の少女。
その2人の話を。
2人ともそれぞれの大切な人への思いと共に、過去へ戻った。
その過程を、結末を、聞いていた。
なぜ過去でのことを知っているのか?
......実は、この店では客には教えないあるルールがある。
それは、
「願いを叶える花を購入した者を、その願いが叶うまで精霊が側で見守る」
こと。
それによって、購入者が現実に戻れなくなることなどを防ぐのもあるし、夏の少女のように、長い期間の願いを叶えるためでもある。
あとは......、過去で何をしたのか、過程をどう変えたのかなどを知るため。
これは、ここの店員が単純に知りたいだけだ。
それがこの店を始めた理由にも繋がっているから。
「自分にとっての幸せを見つける──知るため」
お客様の願いを叶えることで、その人にとっての幸せを知る。
そしてそこから、自分の幸せを考える。
それが、この店を始めるきっかけになった。
名前も、そこからきたものだ。
──そんな思いを込めて。
今日も、幸せいっぱいの香りをお客様へ──
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!