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その店は、男が1人ではとても入りにくい外観だった。
中からはかすかに話し声が聞こえてくる。
......他に客がいるのか?
だとしたら余計に......。
いや。
さっさと入れば特に気にもされないはず。
覚悟を決めて中に入った。
すぐに出てきたのは店員らしき女性。
優しそうな笑顔だった。
......ネットの情報通りだった。
花を手渡すと、俺と店員さんの間に微妙な空気が流れる。
手渡したのは、一輪の白い菊。
なんてことないはずなんだけど、店員さんの様子がおかしい。
少し悩んだその人は、まっすぐに俺を見て言った。
俺はその店員──香織さんに、ここに来た経緯を説明した。
拙い言葉で、多分すごく必死に。
香織さんは、ただ黙って話を聞いてくれていた。
ちゃんと伝わった......んだと思う。
香織さんが俺を見る目は、はじめとはなんとなく違っていて、真剣だった。
変えたくないわけがない。
そのために、ここに来たんだから。
花を受け取った瞬間、目の前が真っ白になった──。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!