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──それは、私にはスローモーションのように見えた。
葉月が、転んだのかバランスを崩して、前方に倒れていって。
やけに派手な看板を付けた、大型トラックが突っ込んできて。
なぜかこちらを向いた葉月の体を、真横から──
この声......葉月......?
それになんか......体が揺さぶられてる感じがする......。
重たい瞼を開けようとする。
......けど、白い光がすきまから入ってきて痛い。
数回まばたきをして、目が慣れてくると、自分の部屋だと
わかった。
なんだ、夢かあ............。
1人で安堵していると、葉月が不思議そうな顔で
見下ろしてきた。
そう言われて起き上がった私は、自分の枕を確認する。
さっきまで自分の頭があった場所のすぐ横が、少しかわいてはいるけど、濡れていた。
きっとあの夢を見たから......。
リアルすぎるあの夢は、いつも私を不安にさせる。
やっぱり、あの運命を辿らないといけないんじゃない?って。
こんなことしてもムダなんじゃないの?って。
......ダメダメ。
そんな不安を乗り越えて、私はあそこに行ったんだから。
「願いが叶うお花屋さん」。
......その言葉を聞いて、思い出した。
あの夢を見て、たまたま部屋に来た葉月に起こされるのも。
葉月が少し浮かない顔をしているのも。
そして、あのお店の話をするのも......。
全部、同じだ......、前と。
ああ......そっか、あの言葉、本当だったんだ。
『どんなに頑張っても、過去は変えられない。』
だから、前と同じように「予知夢」として、あの夢を見た。
ということはやっぱり、東京に引っ越して、葉月はいじめを
受けて......。
そして......葉月は事故に見せかけて自殺する。
だけど。
『だけど、それまでの過程は、変えられます。
そして、この花は、あなたと妹さんを見守ってくれる。
だから、どうか頑張って。』
『ああそれと、一度近くのひまわり畑に行ってみてください。
そこで──。』
その言葉も本当なら、私がどうするべきかはすぐに分かる。
......絶対、自殺なんかさせない......!
―――――
その翌日、私達は引っ越しのために東京へと向かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。