第13話

夏の精霊
34
2019/07/11 02:31
13









あと数時間で、過去ここでの生活は終わる。

私の願いが叶ったその瞬間。

きっと。



















―――――




雛田葉月
雛田葉月
──おねーちゃん!珍しいね、
お姉ちゃんが早起きするなんて......
雛田未津羽
雛田未津羽
だ、だって遅刻したら困るし......
雛田葉月
雛田葉月
いつも遅刻しそうになってるから?
雛田未津羽
雛田未津羽
うぅ。そうだよ......
雛田葉月
雛田葉月
ふーん......


......普通にできてたかな。


前と葉月の言ってることが違ってたから、どうやって話そうか、一瞬迷ってちゃった......。


なんとなく後ろめたさを感じながら朝食を食べて、身支度を
済ませる。




そして、前とは違う気持ちで、葉月と歩き始めた。



──でも、やっぱり私から話しかけることはできなくて。
雛田葉月
雛田葉月
ねえお姉ちゃん
雛田未津羽
雛田未津羽
な、なに?
雛田葉月
雛田葉月
お姉ちゃんって、なんで毎月ひまわり畑に
行ってたの?
雛田未津羽
雛田未津羽
そ、それは......
聞かれると思ってなかった......。

いい理由がすぐに思いつかなくて、ええと......と言葉をにごす。
雛田葉月
雛田葉月
......あのね、精霊のことなんだけど
雛田未津羽
雛田未津羽
精霊......?ああ、ひまわり畑の?
雛田葉月
雛田葉月
うん
一呼吸おいて、葉月は話し出す。
雛田葉月
雛田葉月
私、ずっと気になってたことがあったの。

あのお花屋さんの近くのひまわり畑、
あそこに言った時、しばらくお姉ちゃんが
居なくなっちゃってた
......しのちゃんと話してる時のこと......かな。
雛田葉月
雛田葉月
ひまわり畑の中をどれだけ探しても、
お姉ちゃんは全然見つからなくて。
先に帰っちゃったのかな?って思うんだけど、お姉ちゃんはそんなことしない
雛田未津羽
雛田未津羽
うん
雛田葉月
雛田葉月
だから、1人で行ってみたの。
......ひまわり畑に
雛田未津羽
雛田未津羽
......そう
雛田葉月
雛田葉月
うん。
でね、そこでこれをもらったの
差し出したのは、少し汚れたキーホルダー。

ひまわりを抱き抱えるようにして持っている、くまの。
雛田葉月
雛田葉月
実は私、だいぶ前からキーホルダーがなくて。
なかなか言い出せなくて、どうしようって
ずっと考えてたんだけど......、まさか、
あのひまわり畑、、、、、、、にあったなんて
雛田未津羽
雛田未津羽
......それは......
雛田葉月
雛田葉月
前に住んでたとこと繋がってたんだね、
あのお店
雛田未津羽
雛田未津羽
......キーホルダー
雛田葉月
雛田葉月
へ?
雛田未津羽
雛田未津羽
キーホルダー、誰にもらったの?
雛田葉月
雛田葉月
......お姉ちゃんがしのちゃんって呼んでた子
雛田未津羽
雛田未津羽
そっか
しのちゃんが......。

気を使ってくれたのかな。
私がキーホルダーを隠してしまったから。
雛田未津羽
雛田未津羽
......もしかして他に、何か聞いたりした?
雛田葉月
雛田葉月
うん......
葉月が立ち止まる。

つられて立ち止まると、等間隔とうかんかくの白線があと数歩先にせまろうとしていた。
車の音が、うるさい。
雛田葉月
雛田葉月
全部、聞いたよ。しのちゃんから。
お姉ちゃんがしてくれたこと、全部。
あのお店でお花を買って、過去に戻って、
私を助けてくれて......
雛田未津羽
雛田未津羽
うん
雛田葉月
雛田葉月
あと、このキーホルダーのことも。

──このキーホルダーだけは現実向こうのもので、
これだけは消えずにお姉ちゃんの所にあった。
そして、私が過去ここで買ったものは消えてた。
雛田未津羽
雛田未津羽
うん
雛田葉月
雛田葉月
だから、それに気づいたお姉ちゃんは、
私が探した時にこれを見つけないよう隠した。
前住んでいたところに
雛田未津羽
雛田未津羽
うん......。そうだよ
全部あってた。
私がしたこと全部。

私なりに考えてやったつもりだけど、本当めちゃくちゃだなって思う。
雛田葉月
雛田葉月
ねえ、お姉ちゃん。
このキーホルダーってちゃんと残るのかな
雛田未津羽
雛田未津羽
......残るよ、きっと
そんな言葉しか返せないけど、過去は変えられないならきっと残ってくれる。

この思い出記憶も、全部。














再び歩き出した私達は、前とは違う気持ちで横断歩道を渡ろうとする。

......ここで時が止まってしまったように感じてしまうのは知っていたけど。
雛田葉月
雛田葉月
ほんとにありがとう。大好きだよ。
私の、お姉ちゃん!


そう言って笑う笑顔は、まるでひまわりのようで、この
ひまわりも最後なんだと思うと視界がぼやけそうになる。





次の瞬間、その笑顔は横へ移動して────。












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