前の話
一覧へ
次の話

第1話

恋を失う
35
2019/03/19 17:24
彼はまさに私の理想だった。



彼以外を選択するなんてありえなかった。







背も鼻も高い彼の髪は金色に近い茶色で、左耳に開けた銀色のピアスのせいで少しチャラく見えるが、見た目によらず努力家で地元の国立大学に通っているらしい。声は低めで艶があり年齢の割に大人びて見える。彼とは今日の昼に古本屋で初めて会った。話しているうちにすっかり仲良くなり一緒に買い物をしたりご飯を食べたりして、親密度は恋人並になった。


私がどんな言葉をかけても彼は常に笑顔で答えてくれる。会ってまだ数時間しか経ってないのに彼の癖も分かってきた。私が「おいしい」とか「楽しい」と言うと顔を少し傾けて「そうだね」とはにかむ。また、私が「かっこいいね」とか「優しいね」と褒めると右手を首の後ろに当てて「そんなことないよ」と目線をそらす。私が話しかけないでいると「どうした?」「俺、なんかした?」と不安そうにそして控えめに聞いてくるところなんて、年上ということを一瞬忘れさせる可愛さである。全てが愛おしく、いちいち心臓に悪い。







夕方になって私の部屋で彼と楽しくデートしていると急にドアが開いて母が入ってきた。母は彼を見た瞬間目を吊り上げて手をこちらに伸ばしてきた。私は彼をすぐ隠そうとしたが母の手の方が速かった。母は私から彼を取りあげこう言った。
「いつまでもゲームしてないで部屋の片付けをしなさい!」
そして母は無慈悲に電源スイッチを押した。

私は恋を失った。

プリ小説オーディオドラマ