第12話

麻生くん
149
2018/06/07 03:14
明かりの消えた、静かな廊下。誰一人やって来ることもない、使われなくなった校舎。午前10時を過ぎたくらいのこの時間は、照明が付いていなくても明るい。ふと、窓を覗くと、体育の授業をしている生徒達が、サッカーボールを蹴っている。
麻生塁
僕、佐々木さんのことが好きだよ
麻生くんは、そう呟いた。
麻生塁
初めて会った時、一目惚れした。『なんだこの子』って。両想いになりたいって思ったら、困らせちゃうかな?
梨乃花
え・・・?
麻生くんのことは、嫌いじゃない。美空ちゃんが好きな人だから、もちろんいい人だと思うし、イケメンで、モテる。でも、そんな人が、私のことを・・・
麻生塁
ごめん、困らせちゃったよね
梨乃花
え、えっと・・・
麻生塁
分かってるよ。佐々木さんに好きな人がいることくらい。
梨乃花
え?
麻生塁
でも、伝えたかった。本当に両想いになれなくても、僕のことを意識して欲しいって思ったんだ。ごめんね。
この人は、とても誠実な人だ。告白してきたのに、「困らせてごめん」だなんて。私だって、好きだったらOKするに決まっている。
でも・・・私は・・・恋なんてしないって決めたから。
梨乃花
気持ちはとても嬉しいよ。好きになってくれてありがとう。でも、私もう恋しないって決めたから。ごめん。
麻生塁
・・・え?
麻生塁
恋しないって決めたの?
梨乃花
え、うん
麻生塁
佐々木さんは、佑樹のことが好きなんじゃないの?
梨乃花
え?違うよ
どうして高宮くんが出てくるのだろう。確かに、力になりたいとは思うけど、それは恋愛感情とは別物だ。
麻生塁
なんだ、そうなんだ。でも、恋しないって決めたんだったら、もう何も出来ないよね。
梨乃花
・・・ごめん
麻生塁
ううん、伝えたかっただけだから
・・・美空ちゃんごめん。麻生くん、当分美空ちゃんのこと好きにならないかも・・・。
栗原美空
おかえり~、何の話だった?
教室へ戻って行くと、美空ちゃんが出迎えてくれた。このことは言わない方がいいよね。
梨乃花
高宮くんどうして休みなのかな~、って話だったよ~
栗原美空
なんだ~、梨乃花ちゃん告白されるのかと思ってた
・・・・・。
美空ちゃん、それ冗談だよね?
栗原美空
私ね、さっき決めたんだけど、別に両想いじゃなくていいかなって思ったの。このままみんなの王子様でいてくれた方が、みんなもいいと思うし。
梨乃花
え、そうなの?
栗原美空
うん、それでいいの!
梨乃花
・・・そっか
美空ちゃんが明るく笑うから、そう言うしかなかった。本当に、それでいいのかなって思えた。

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