明かりの消えた、静かな廊下。誰一人やって来ることもない、使われなくなった校舎。午前10時を過ぎたくらいのこの時間は、照明が付いていなくても明るい。ふと、窓を覗くと、体育の授業をしている生徒達が、サッカーボールを蹴っている。
麻生くんは、そう呟いた。
麻生くんのことは、嫌いじゃない。美空ちゃんが好きな人だから、もちろんいい人だと思うし、イケメンで、モテる。でも、そんな人が、私のことを・・・
この人は、とても誠実な人だ。告白してきたのに、「困らせてごめん」だなんて。私だって、好きだったらOKするに決まっている。
でも・・・私は・・・恋なんてしないって決めたから。
どうして高宮くんが出てくるのだろう。確かに、力になりたいとは思うけど、それは恋愛感情とは別物だ。
・・・美空ちゃんごめん。麻生くん、当分美空ちゃんのこと好きにならないかも・・・。
教室へ戻って行くと、美空ちゃんが出迎えてくれた。このことは言わない方がいいよね。
・・・・・。
美空ちゃん、それ冗談だよね?
美空ちゃんが明るく笑うから、そう言うしかなかった。本当に、それでいいのかなって思えた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。