(そんな簡単に、
『結婚を前提に』なんて言っていいの?
この合コンに参加してるってことは……)
(テレビで見ない日はないくらい、
有名なホテルなんですけど!)
つい心の声をもらすと、
染谷さんはまたぷっと吹き出す。
熱くなる顔を隠すように俯くと、
染谷さんの手が頬に添えられた。
(染谷さんの顔が近くに……)
つい、息を止めてしまう私に、
染谷さんはふっと笑みをこぼす。
(お試しとか、できればしたくないけど……)
なぜだか私は染谷さんの手を振り払えないし、
その瞳から目を逸らせない。
それが、答えのような気がした。
はにかむ染谷さんの表情は、
少年のように無邪気で……。
(もっと見てみたいな、染谷さんのいろんな顔)
純粋に、そう思うのだった。
***
――翌日。
大学の授業が終わって、
鞄に教科書を詰めていると……。
名前を呼ばれた。
顔を上げると、そこにはひとつ下の学年で、
後輩の田崎 丸くんがいた。
実はこのあと、
染谷さんとデートをすることになっている。
(正式に付き合ってるわけじゃないから、
『デート』って呼んでいいのかわからないけど……)
あからさまに落ち込む丸くんの頭とお尻に、
垂れ下がった犬の耳と尻尾が見えるような……。
私は鞄を肩にかけて、
丸くんと教室を出た。
その間、男子学生の視線が
やたらと自分に集まってくるのを感じる。
(え……?)
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。