白金さんの視線が私に注がれる。
(そんな、大げさな……)
(そういえば……。
染谷さんは私といると癒されるから、
そばにいてほしいって言ってたな)
白金さんはそこで、ふっと笑う。
(えええっ)
白金さんは私の腰を引き寄せ、
額や頬にキスをしてくる。
(昨日、頬や耳たぶに触れた
染谷さんの唇の感触が消えてしまう……!)
目に涙が滲んだ、そのとき──。
力強い腕が私の身体を抱き寄せた。
誰かの胸に顔を埋めると、
私と同じシャンプーの匂い。
その瞬間、安堵して涙が頬を伝う。
白金さんはあっさりと、
その場から去ろうとする。
その背中に、染谷さんが声をかける。
その言葉に、白金さんは片手を上げただけで、
そのままいなくなってしまう。
ほっと息をつくと、
染谷さんが私の手を引いて歩きだした。
強く握られた手が痛い。
でも、振り払おうとは思えなくて……。
私は大学を休んで、
染谷さんのそばにいることを選んだ。
***
染谷さんのマンションに帰ってくると、
もつれ合うようにベッドに倒れ込む。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。