隣でバルコニーの柵に肘をつく
男性に少し緊張しながらも、
私は頷く。
(今度からひとり言を言うときは、
周りに人がいないか確認しよう)
(う、わ……)
かっこいいんだけど、
綺麗のほうがしっくりくる染谷さんの微笑み。
不覚にも、胸がドキドキした。
(見た感じ、20代半ばくらいに
見えるけど……)
地味にショックを受けている様子の染谷さんに、
私は慌てる。
そうは言いながらも、
染谷さんは手で口元を押さえて、
肩を震わせている。
今日の合コンでも『嫌だ』って
はっきり断れなかったように、
私には意見を飲み込む癖がある。
怖いんだ、私の言葉で人の顔色が変わるのは。
だけど、染谷さんは私と話している間、
ずっと笑っていた。
だからか、私は相手の反応を気にすることも忘れて、
染谷さんとの話に夢中になっていた。
染谷さんは、
ものすごく優しい顔で私を見つめていた。
(なんだろう。この息苦しいくらいの、
胸のドキドキは)
そう言いながら、
染谷さんは私に向き直る。
その言葉で思い出すのは、
数十分前に発した自分の言葉。
『私は、一緒にいて居心地がよくて、
気を使わない相手が理想かな……』
染谷さんは、
私の手をすくうように取る。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。