第38話

37
1,320
2022/02/23 11:31
あなた
だから、これはなんなんですかって聞いてるんです
父
私は知らない。あいつが勝手にやったことだろう





出たかと思えば相変わらずドスの効いた声でなんだ、と一言。




その一言すらも今はイラついてしまって仕方がない。




端的に目的を伝えれば知らないの一点張り。きっと着信をかけてからすでに20分はこのやり取りを繰り返している。




あなた
...私には理解ができません。あれだけ酷いことをした父さんにどうしてそんな事が言えるのか
父
…私に聞くな
あなた
まだ続きがあります…“二人を守るため“。
父
…あいつの勝手な妄想だ。気に留めることでもないだろう
あなた
今思えば不思議なこともありました。あれだけ放置して、兄さんと私をどうも思ってないような態度をしていたのに。
あなた
臨時代表を務める時、初めてあんなに言葉をかけてくれた。感謝している訳ではありませんが、興味がない子供に言葉をかける人がいるでしょうか
父
会社の顔を潰させないためだ、勘違いするな
あなた
私が少しでも体調を崩した時。初めて貴方から着信がありました。薬も郵送してくれましたね
あなた
兄さんの時もそう。母さんにはかけなかった医療費をかけた。そのおかげで兄さんは今生きている。
あなた
…もう子供ではありません。あなたの築き上げてきた会社を一任された一人です。あなたにとっては未熟かもしれませんが。
あなた
これ以上、隠し事をするのはやめてください。もう私たちはあなたに守られる対象ではありません
あなた
これ以上、何も知らないまま貴方を憎み続けるような親不孝者でいたくないんです。何も知らないまま貴方が死んだら、私は母さんにどんな顔で会えばいいのですか
父
……本当に、お前達は昔から変に勘がいい。知らなくていいこともあると言うのに





やっと観念したのか、ドスの効いた声が少しだけ柔らかくなった気がした。




…今更何を言われたところで、きっと私はこの人を赦したいとは思えない。




ただ、母さんが言うなら。少しは考えてみてもいいのかもしれない。




母さんが私達三人揃っての参拝を望むのなら。できるだけ、その意思を尊重したいから。


























父side___
















"二人を守りなさい"








父
...それは、どう言った意味で?
おばあちゃん
言葉の通り。貴方の、子供を守るのよ
父
何から守れと?
おばあちゃん
...私の、親族から。
父
...はい?
おばあちゃん
とりあえず、あの二人を守るの。何があっても、何をしてでも守りなさい。
父
意味が分かりません...何から守るのかも分からないのに
看護師
あなたの名字様、そろそろ面会時間が...
父
...分かりました。すぐに出ます
おばあちゃん
...貴方しか、守れないのよ
父
......また明日来ます。




娘が小学生に上がり、息子もそろそろ小学生に慣れてきた頃。




昔から、俺がこの座に着いた時から幾度となく世話になった婆さんが倒れた。




子供達の面倒もよく見てくれた婆さんだから、お見舞いに行かないわけにもいかず、時間を見つけて病院へ通っていた時。




いつものように婆さんに簡単な手土産を手渡して、帰ろうとした矢先に言われた言葉だった。




"二人を守りなさい"




全くもって、意味が分からなかった。




俺は俺なりに、仕事も家庭も、両立していたはず。




家事を担当することは出来なくとも、余裕があった時は手伝いもした。




妻と、娘と、息子。そして俺の四人で、執事やらも誰一人いない家族だけで旅行に行ったこともあった。




時には二人に勉強を教えたりもした。小学生程度の学は大人になっても抜けることはなかったから。




そんな平穏な生活の何から二人を守れというのか。




当時は理解出来るはずもなかった。




















 









それから程なくして、婆さんはまた入院した。




二度目の意識不明。毎度誰かの目の届く所で倒れていることだけが救いだった。




その時もまた、同じように。




俺に言った。"二人を守りなさい"。と。




父
...そろそろ、教えてくださいませんか。何から守れというのか
おばあちゃん
...遺産を、貴方の子供達に相続させるつもりなの
父
...は?
おばあちゃん
これ...コピーだけど。原本は行政書士の方に預かってもらってるわ
父
これは.......縁起の悪い。今貴方に死なれたら困ります
おばあちゃん
大丈夫よ、貴方はもう充分社長らしいもの。
父
...だからと言って、財産を全て娘に...あなたに相続させるのは賛成し兼ねます。
父
守れと言うのに、わざわざ我が娘に矛先を向くようなことをする必要は無いでしょう
おばあちゃん
...ダメなのよ、本家の人間じゃ。
父
とは言え、他にも相続先はいるはずでしょう
おばあちゃん
貴方の子供だからこそ渡すの。
父
...出来ることなら、あなたがこの地位に上がるまでは生きていてください
おばあちゃん
...頑張ってみるわ笑
父
失礼...します




婆さんが、ベッド脇の棚から取り出した茶封筒。




そこから取り出し、俺の目の前に差し出したのは婆さんの達筆で書かれた三文字。




"遺言書"




まだまだ死にそうにもないくせに、立派な字体で書かれたその三つ折りの紙を開くと。




きっと、今の俺が持つ財産よりも膨大な財産の相続先が書かれていた。





























遺言者"シン"ヒェリンは本遺言書により以下の通り遺言する。




あなたの名字あなたに次の財産を取得させる。

永遠山、並びにその山頂に位置する築150年の家屋。及び"シン"家の全財産。




上記に記載のない財産については全てあなたの名字ヒョンジンに取得させる。




























プリ小説オーディオドラマ