第3話

手紙
36
2018/12/20 11:02
いきなりのことに頭が追い付かない私。


生き返ったってなに?


人間は普通生き返らないでしょ。


転生してきたとかじゃなくて?


転生して稀にいる、記憶が残ってたってことじゃなくて?
宇佐美円香
宇佐美円香
え......と
神崎まつり
神崎まつり
円香、これ読んで
まつりは、私に白い封筒を渡した。


これ、誰かからの手紙?
中を読んでみると、現在の“まつりが生き返った”件について書かれていた。

ていうか、この手紙を書いた人は何者?





『俺は今から混乱中の宇佐美円香に向けて、今の状況を説明する。

よく読めよ、宇佐美。

お前の目の前にいる男、神崎まつりは、一週間だけ生き返ることに成功した。

その一週間は、今までまつりが“せいの国”に生きてた様に、みんなの記憶はすり替えられてる。

ただし、一週間を過ぎ、まつりが“生の国”から去ったら、“まつりがいた記憶”はなくなる。

つーか、俺が消す。

つまり、その一週間は自由だ。

まつりと好きなことを好きなだけやれ。

それも条件付きだがな。



ひとつめ。

お前の周りの友人や家族に、混乱を与えるような発言はするな。

お前の友人や家族は、まつりが生きてると記憶されている。

焦る必要も、戸惑う必要もない。



ふたつめ。

まつりに何かを買い与えるのはやめろ。

まつりの服や鞄、ベッドや家具など、まつりが生活するのに必要なものは全てそこに置いている。

買い与えても、まつりが消えた時は、邪魔になるだけだぞ。



みっつめ。

この手紙は最後まで呼んだら燃やせ。

これは、“生の国”には置いてはいけない手紙だ。

自分の命が惜しけりゃ、今日中に燃やすんだな。




以上だ。

後は勝手に好きにしてろ。

じゃあな。

せいぜい、その一週間を後悔の無いよう楽しむんだ。』








宇佐美円香
宇佐美円香
これ......か、神様?
神崎まつり
神崎まつり
んー、神様かどうかは微妙だけど、いい奴だよ、レオンは
この手紙を書いた人(?)は、レオンと言うらしい。
神崎まつり
神崎まつり
もう一枚の手紙は、俺宛てみたいだな
そう言って、まつりは手紙を読み始める。


少しして苦笑しながら、「あいつ......」と呟いていた。
宇佐美円香
宇佐美円香
も、もし、記憶があるなら......
私は、少し疑ってはいたが、まつりが私の部屋にいる時点で、信じない方がおかしいと思った。
宇佐美円香
宇佐美円香
弘人と杏璃に会っても平気?
神崎まつり
神崎まつり
ああ。平気だろ。会おうぜ
まつりは、二年前私に向けていた笑顔をした。
この笑顔。

いつまでも忘れることのなかった笑顔だ。

何度も夢に出てきたり、仕事中も頭を過ったり。

なにかと邪魔をしてくる笑顔だったな。


私は、まつりの笑顔を思い出した私を、思い出しながら苦笑する。
















すると、ふと、全く別の感情が溢れ出た。




それは、私の大きく透明に光る涙によって、まつりに伝えられた。
神崎まつり
神崎まつり
あれ、泣いてる?
まつりの、少し心配そうな声に安心する。


これが聴きたかった。


去年も一昨年も、事故に合ったあの日から、


ずっとずっと夢見てた。


この声が聴ける日を。
宇佐美円香
宇佐美円香
っ......ぅ......ばかっ......
私は、せっかくまつりに会えたってのに、


せっかくまつりの声が聴けると言うのに、


私の涙声で遮って、


何も聞こえない。


聴きたい。


もっともっと。








まつりは、泣いた私の顔を見て、腕を伸ばしてきた。



まつりの腕は、優しく私の体を包み込む。
神崎まつり
神崎まつり
円香......
宇佐美円香
宇佐美円香
ま、つりのっ......ばか
神崎まつり
神崎まつり
うん、ごめん
宇佐美円香
宇佐美円香
ばかっ......あほ......ぐすっ......な、んで......
神崎まつり
神崎まつり
ごめん、ごめんな、円香
宇佐美円香
宇佐美円香
うっ......ぅ......ばかぁ......
まつりの腕の中にいる私は、とまることなく、「ばか」を繰り返す。



私は「ばか」を繰り返し、まつりは「ごめん」を繰り返す。






今までなにも伝えられなかった。


あの事故の日だって、私はまつりに隠し事をした日だった。


仕事してても、


勉強してても、


友達や同僚と話してても、


食事してても、


まつりのことだけが、頭に浮かんでくる。


そんな毎日が苦痛で。


嫌になる毎日で。


なにも受け入れられず、


なにも伝えられない。







そんな私は、


まつりにある言葉を言うのを諦めた。


まつりは私に言ってくれる。


でも、同じ言葉を返せなかった。











けど、今なら言える気がする。


遠慮なんかしない。


あの時の臆病な私はもういないから。


まつりが言ってくれるなら、


私もはっきり言うよ。


























































































____あんたが、大好きだってこと。

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