いきなりのことに頭が追い付かない私。
生き返ったってなに?
人間は普通生き返らないでしょ。
転生してきたとかじゃなくて?
転生して稀にいる、記憶が残ってたってことじゃなくて?
まつりは、私に白い封筒を渡した。
これ、誰かからの手紙?
中を読んでみると、現在の“まつりが生き返った”件について書かれていた。
ていうか、この手紙を書いた人は何者?
『俺は今から混乱中の宇佐美円香に向けて、今の状況を説明する。
よく読めよ、宇佐美。
お前の目の前にいる男、神崎まつりは、一週間だけ生き返ることに成功した。
その一週間は、今までまつりが“生の国”に生きてた様に、みんなの記憶はすり替えられてる。
ただし、一週間を過ぎ、まつりが“生の国”から去ったら、“まつりがいた記憶”はなくなる。
つーか、俺が消す。
つまり、その一週間は自由だ。
まつりと好きなことを好きなだけやれ。
それも条件付きだがな。
ひとつめ。
お前の周りの友人や家族に、混乱を与えるような発言はするな。
お前の友人や家族は、まつりが生きてると記憶されている。
焦る必要も、戸惑う必要もない。
ふたつめ。
まつりに何かを買い与えるのはやめろ。
まつりの服や鞄、ベッドや家具など、まつりが生活するのに必要なものは全てそこに置いている。
買い与えても、まつりが消えた時は、邪魔になるだけだぞ。
みっつめ。
この手紙は最後まで呼んだら燃やせ。
これは、“生の国”には置いてはいけない手紙だ。
自分の命が惜しけりゃ、今日中に燃やすんだな。
以上だ。
後は勝手に好きにしてろ。
じゃあな。
せいぜい、その一週間を後悔の無いよう楽しむんだ。』
この手紙を書いた人(?)は、レオンと言うらしい。
そう言って、まつりは手紙を読み始める。
少しして苦笑しながら、「あいつ......」と呟いていた。
私は、少し疑ってはいたが、まつりが私の部屋にいる時点で、信じない方がおかしいと思った。
まつりは、二年前私に向けていた笑顔をした。
この笑顔。
いつまでも忘れることのなかった笑顔だ。
何度も夢に出てきたり、仕事中も頭を過ったり。
なにかと邪魔をしてくる笑顔だったな。
私は、まつりの笑顔を思い出した私を、思い出しながら苦笑する。
すると、ふと、全く別の感情が溢れ出た。
それは、私の大きく透明に光る涙によって、まつりに伝えられた。
まつりの、少し心配そうな声に安心する。
これが聴きたかった。
去年も一昨年も、事故に合ったあの日から、
ずっとずっと夢見てた。
この声が聴ける日を。
私は、せっかくまつりに会えたってのに、
せっかくまつりの声が聴けると言うのに、
私の涙声で遮って、
何も聞こえない。
聴きたい。
もっともっと。
まつりは、泣いた私の顔を見て、腕を伸ばしてきた。
まつりの腕は、優しく私の体を包み込む。
まつりの腕の中にいる私は、とまることなく、「ばか」を繰り返す。
私は「ばか」を繰り返し、まつりは「ごめん」を繰り返す。
今までなにも伝えられなかった。
あの事故の日だって、私はまつりに隠し事をした日だった。
仕事してても、
勉強してても、
友達や同僚と話してても、
食事してても、
まつりのことだけが、頭に浮かんでくる。
そんな毎日が苦痛で。
嫌になる毎日で。
なにも受け入れられず、
なにも伝えられない。
そんな私は、
まつりにある言葉を言うのを諦めた。
まつりは私に言ってくれる。
でも、同じ言葉を返せなかった。
けど、今なら言える気がする。
遠慮なんかしない。
あの時の臆病な私はもういないから。
まつりが言ってくれるなら、
私もはっきり言うよ。
____あんたが、大好きだってこと。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!