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第1話

『 イイワケとチョコを作って 』
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2020/07/16 14:14
☆0☆




たぶん…




半年くらい前から。
あなたは あまり、笑わなくなった。



臆病で前には出てこないあなたは、

自分の気持ちを素直に出せない。






そんな癖は、もう、とっくに気づいてるよ。















だって、あなたを愛しているから。








☆1☆


「なぁ 〇〇?」

〇「なにぃ?」

「久々、俺ん家 来ぉへん?」

〇「え…どうして?」




偶然 会った 幼馴染。望。



望「オカンおらんから、ピザでも宅配してもらおう思ってな。」

〇「で?なんで、私が?」

望「お前アホか!ふたり居れば、デッカいの頼めるやろ!」

〇〇「や、小さいの頼めばイイでしょ!?」

望「エエから!」



話すのも久々だったからさ…

しかも、なんだか背も伸びて、一気に大人っぽくなってたから、余計に…


そんな私の気持ちを知らないであろう彼は、
私を強引に家の中へ連れ込んだ。

こんなとこ、知らない人に見られてたら、
メッチャ怪しまれるじゃん!

なんて、私は心の中で、少しキレていた。























はずだった…







☆2☆


〇「うわぁ〜なつかしぃ〜!」


この家に入るのは、2年ぶりくらい。


望「〇〇さぁ、まだあの男と付き合ってるの?」

〇「えっ、あ〜まぁね。」

望「なんやその、まぁねって?」



だって…
形の上では、カレカノだけど…



望「お前、、、好きでもないのに付き合うてるんか?」

〇「え…」



それは、私の中には無い答えだった。
しかも、ベストアンサーだと、その時の私は思ったんだ。



望「アホやなぁ〜〜情だけなら、別れろ別れろ〜!」



呆れた口調で言われた。

もし彼が、友達から そんな風に言われたら、別れを切り出すのだろうか?

いや。
そんな度胸はないだろう。

優し過ぎるんだ。


でも…









そんな所が、好きだったりするから…






☆3☆


ピンポーン♪



望「やっぱ ピザは、デッカいのやなぁ〜〜」



ルンルンしながら、デッカいピザを頬張る姿を見ていたら、幼い頃を思い出した。



〇「ねぇ?小さい時にした約束、覚えてる?」



アレは確か…
小学1年生の時。
帰り道に大きなカエルがいて、、、



望「どないしたん?怖いん?」

〇「うん…怖いから、ここ通れない…」



立ち往生している私を見つけた望は、そう声を掛けると、泣きそうな私を見て言った。



望「俺と一緒やったら、何にも怖ないで!」



ウソだ…


心ではそう思っていたのに、
望が差し出した右手を無視できなくて…

その手を繋ぐと望は走り出し、アッっと言う間に、カエルを通り越して家に着いた。



望「ほらな!〇〇が怖い時には、俺を頼ればエエねんで!?」



『怖かったドキドキ』と『走ったドキドキ』に混ざって、

『もう一つのドキドキ』を初めて体験した。




望「お礼は、チョコな!デッカいのやで!」







☆4☆


私はその年から ずっと、望にバレンタインチョコを渡した。

私に彼氏ができるまで…



望「あ〜、約束ってか、お礼はチョコってな。」

〇「懐かしいね。」



そう笑って望を見ると、
さっきまでピザをモグモグしてたとは思えない、どこかセツナい顔をしていた。



望「俺ら高校違っちゃったからな…アカンかったわ。」

〇「え、何が?」



私の問いには答えず、ソファの隣に座り…



「キレイ なったな。」と、私の髪にそっと触れた。



望…
違う人みたい…


元々、可愛らしい顔立ちだったけど…
今は、まるでモデルさんの様にキレイに整って…

声も語り方も、どことなく艶っぽくて…

こんな近くで見られたら、照れちゃうよ//…



望「俺はずっと、〇〇のチョコ 待っとるんやけどな…」

〇「えっ// 何言ってんの?彼氏がいる人からもらっても嬉しくないでしょ?!」



望「せやから…
















__________別れろよ…」







☆5☆


ここで「うん」と言えば、
すぐにでもキスできる距離まで近づいている望…


私の返事を待たずに、髪を触れたその手で肩に触れた。

その瞬間、
私はまるで、そんな経験が無い子の様に“ビクッ”としてしまった。


それも当たり前だった。

彼との最後のキスも、思い出せないくらい前だった。

こうして、触れられたのでさえも…











これが…ベストアンサー………










…でも…怖い…








望「大丈夫や。俺が…助けたるから。」



そう言われて、望が唇に触れると、不思議と体は抵抗しなかった。


望は、私の心を読んだかのように…



私はこうして『イイワケ』を作った。







☆6☆


最後に…

悪あがき。



ずっと行きたかった、夜の街のイルミネーション。


最近の彼は、ずっとこんな感じ。

私だけ はしゃいで…
バカみたいに、はしゃいで…

今日、終わりが来ることを彼は知らない。

だから、いつもと変わらない…



最後なのにな…



周りのカップルは、手を繋いだり、肩を組んだり、腰に手を回したり、、、

キスをしてる人もいるのに…



私は、辛い心を閉じ込めて、笑顔を振り撒き、おどけてみせた。

そんな私を見て、楽しくなさそうに彼が笑った。


その隙を狙って、、、


思い切って…


本当に、思い切って…






手を繋いでみた。






この場の雰囲気もあるし、久しぶりの温もりだし…

少しはドキドキしたりして、私の事、見直したり…








しないかな…







☆7☆



「何してんだよ!人前で恥ずかしいだろっ!!!」



周りのカップル達がビックリするほど、彼は声を荒げた。



私達だけだよ…
カップルっぽくないの。

付き合いたての頃は、手を繋いで歩いてくれたのに…



〇「ごめんなさい…」

「お、おん。行こうか…」



悪あがきは、本当に悪あがきに過ぎなかった。
そう簡単に、人の心は変わらないんだな。



私は、寒さの中、かじかんだ心で終わりを告げる。

予定通り。
輝く、大きなツリーの下で。



〇「大学って、どんなところ?」

「え?きゅ、急になに?」



私達は付き合って半年しか同じ学校へ通っていない。



〇「来年、受験だから…知りたいなぁって思って。」

「一緒の ところ受験するの?」

〇「う〜ん?まだ分からない。でも、また一緒の学校になれたら嬉しくない?」



そう聞いても、うつむくだけで返事がない。

1分?2分?
しばらくの沈黙が永遠に感じた…







☆8☆


そんな沈黙を破った彼の言葉は…



「大学はさ……新しい出会いがある場所なんだ。」



私の予定を狂わせた。


私とは月に一度くらいしか会えなかったのに…

彼は私の知らない場所で、
私の知らない新しい生活をしていたんだ。



「先生や仲間や……












……新しい恋。」



〇「え…」





新しい…







恋…?






「好きな人ができたんだ…」






好きな人…?





こんなはずじゃ…


予定を乱された私は、
もぉ、どうしていいのか…

修正できない状況に、かじかんだ心は私の表情ともに凍りついていた。







☆9☆



「俺が告った時、覚えてる?」



私はまだ付き合っていない彼に送ってもらい、帰ってきた。
家の前で、少し会話をしていると、



望「よっ!〇〇〜」

〇「あ!久しぶり〜(笑)」



自転車で スゥ〜と横付けしてきた、他校の制服を着た望。

卒業式 以来に会う望を見て、私は一気にテンションが上がった。



〇「あ、こちら学校の先輩。で、こっちが幼馴染。望は、家がすぐそこなんです!」

「そうなんだ…」

望「なぁ〜〇〇 聞いてぇ!今日さ〜淳太の恋話 聞いてん!」

〇「呼び捨てダメ!淳太先輩でしょぉ〜」

望「ええの!でさ、アイツ電車で会った知らない子を好きなんやて!ウケるやろぉ〜〜!」

〇「いやいや、ウケるポイントが分からん分からん〜(笑)」



テンションが上がったまま、彼をそっちのけで話していると…



「俺 帰るわ…またね。」

〇「えっ、あ、送ってくれて、ありがとうございます!」

「お、おん…」







☆10☆


彼は、なにか言いたそうな感じだったが、そのまま帰って行った。

と、思ったら…



「チョット…話しがあるんだけど…イイかなぁ?////」



と、戻ってきたんだ。


そして、告られた。

寡黙な先輩は、とても大人に見えて、
私は、その雰囲気に、憧れを感じていた。

だから、、、付き合い始めた。










「あの時、幼馴染と話してる〇〇の笑顔が、可愛すぎて…
  渡したくないって思ったから、戻って告ったんだ。

けど…

〇〇は、あんな笑顔を俺に見せたことは、無かった。」




私…


彼のコトが好きだった。


望とは違う、あまり自分をアピールしないところ。
望とは違う、私の話しを微笑んで聞くだけのところ。
望とは違う、強引じゃないところ。
望とは違う…




「や…一度だけあったな。バレンタインチョコをくれた時…






☆11☆



「箱に入った小さくて可愛らしいチョコを見て俺が喜んだら…」


_____

〇「やっぱり、望とは違うなぁ〜望はデッカいチョコじゃないと嫌がるの〜変な奴でしょぉ!?」

_____


「…って、満面の笑みで話してた。」



彼はそう話すと、パッと顔つきが変わった。



「少し前に…女の子に告られたんだ…」



彼が…
好きな人の話しを始めた。



「その子が俺に話しかけてくる時の笑顔は…〇〇の笑顔に似ててさ…恋してるんだな…って感じたんだ。」




恋…


望とは違う、デッカいチョコじゃなくても、大丈夫なところ…


それは…
私じゃ無くても…
大丈夫だってコト…なんだね…


彼も また…
付き合ってスグの頃に見せてくれていた笑顔になっていた。


好きな人って…
誰かに話すだけで、そんな笑顔になれるの?


知らないでいたのは、私だけだった。






望…


心が勝手に、呼んでいて…






涙が…


溢れた…………








☆12☆


彼の車で送ってもらうのも…最後。



「〇〇…今まで、ありがとう…

                                                幸せになれよ。」





最後に彼は笑った。


降りたまま立ち尽くす私を、彼の気持ちは気に留めることも無く…



車は静かに…去って行った。




私…バカみたい…

別れる為の『イイワケ』なんて、作らなくて良かったのに…





望「なんて顔してんねん。」




うつむいていた顔を上げると、
いつもと変わらない望がいた。

そんな、近づいてくる望が笑顔なコトに腹立たしかった。



〇「ばかっ!!!」

望「はぁ??誰がバカやねんッ?!!!」



どうしてだろう?
何で私 怒ってるんだろう?


それより…
どうして…こんなにも…


愛おしいの……??


私は、ゆっくりと近づいた。


望の胸におデコをあて、
「ばか…」と呟いて…





泣いた…







☆13☆


私は、ずっとずっと…

望を待っていたんだ。

毎年 渡していたのは、デッカいチョコだけでは無かった…
いつだって、デッカい想いも一緒だった。

『もらえない返事』が当たり前になっていた恋は、いつしか空気の様になっていた。







〇「いい加減…









                _____好きって…言ってよ…」





もぉ…催促だよ…




望「アホか…もう好きやて…分かっとるやろ…」




そう言いながら ゆっくりと抱きしめられた。





望「お前こそ…寄り道し過ぎや。」

〇「…ごめん……」




そう言って、望を抱きしめ返した時 気付いた。



〇「冷たい…」

望「おん。ずっと待っとった。」







私達はもう…
待つことも、待たされる事も無い。

もちろん『イイワケ』もいらない。

やっと、素直になれたから。







☆14☆


望「お礼は、チョコな!」

〇「分かってる。デッカいのでしょ!?」



今年からまた、デッカいチョコを作る。

でも、前とは違う。




〇「チョコのお礼は?」

望「ほな〜〜俺の部屋 来る?」



なんて、恋の進展も♡



                                                ☆fin.☆

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