第75話
飴村乱数 3話
一直線上を歩いていく。
周りの視線が私に集中する。
持てるだけの、最大限の魅せ方で。
いつもそうだった。
ランウェイの上では、意識にモヤがかかって体だけがキビキビ動く。
気が付いたら、立ち止まってポーズをしていた。
気が付いたら、引き返していた。
気が付いたら…
ランウェイから降りるとき、いつも思う。
私のしたいことはこれじゃない。
こうじゃないの。
舞台裏を控室まで歩くとき、背中をトントン、と叩かれる。
モヤのかかった世界から現実に引き戻すのはいつもこの人の声。
言いながらウインクを決める。
違う。
こうじゃない、のに…。
いつもなら笑ってお礼を言えるのに、今日はまだモヤモヤする。
何も言えずに、少し俯いた。
そう言って、飴村さんは立ち去った。
久しぶりだな。
いつの間にかモヤモヤは奥の方に引っ込んでいた。