第142話
感謝祭5:幻太郎
そして今日。
あなたの誕生日当日。
あと少しであなたが来るはずだが…。
ピーンポーン
案の定なったドアホンに、胸が踊る。
ドアを開けると、そこには愛しい恋人の姿があった。
私はあなたを強く抱きしめた。
耳元であなたが微かに笑う声が聞こえる。
細い腕が僕の背中に回される。
そのまましばらく抱き合う。
静かにあなたの頭が少し離れる。
優しく背中をぽんぽんと叩かれ、余計に強く抱きしめてしまう。
恥ずかしがってバタバタと暴れるあなたを持ち上げて、玄関に入れた。
そのまままた抱きしめる。
やっと小生のものになったのですから、
愛しく思うのは当然でしょう…?
思わず、照れ隠しをしてしまう。
こんな素直じゃない性格、直しておけばよかったな…。
俺が一人で後悔をしていると、あなたが俺の頭に手を置いた。
そう言って微笑まれると何も言い返せなくなる。
そうつぶやきながら僕はその場にしゃがむ。
あなたも僕の目の前にしゃがんだ。
あなたはそう言って舌をぺろりと出す。
そう言って立ち上がり、手を差し伸べてくる。
その腕をぐいっと引いて、
キスをした。
和気あいあいと会話をしながら居間に上がる。
緊張の瞬間が刻一刻と近付いてきていた。
我ながら自分の挙動にうんざりする。
世紀のシナリオライアーがなんてザマだ…。
この日は花札をしたり、話したり、ケーキを食べたりして過ごした。
そして夕方。
無邪気な笑顔を前にして思わず喉が閉まる。
言いかけた言葉を無理やり引き出した。
二人で目を丸くする。
一人で話を解決させて頭を下げるあなたを見て
慌ててそれを止める。
純粋無垢なその言葉に、こっちが泣きそうになる。
思わず感情がこぼれて口調が崩れる。
あなたがもう我慢ならないというように笑った。
あなたは一歩こちらに歩いてきて、俺の両手を取った。
ね、とあなたは諭すように首を傾ける。
あなたは拍子抜けしたようにまた笑った。
独り言のようにそう言うと、手を離して向きを変える。
深く一礼をすると、あなたは道を歩いていく。
僕はそれをずっと見守った。
あなたの姿も遠くなった頃、あなたがこちらを振り向いて手を振る。
僕も手を振り返した。
込み上げてくる愛しさを胸に、家に入った。