第5話

作戦会議-1
1,077
2022/04/10 23:00
 帰宅したわたしは真っ先に兄のひとりの部屋へと直行した。

 扉をノックしようと前で拳を握ると同時に女の人が部屋から出てきた。この間見た人と違う。

 兄のゆうは今二十歳で大学二年生。女好きで女たらしだ。藤倉君のように抜けたイケメンでもないし、そのお兄さんのようにスポーツで目立つわけでもない。特別背が高くもないし、秀才でもない。飛び抜けたところはない。しかし、恋愛経験は豊富で彼女は頻繁にコロコロ変わる。とてもモテるのだ。

 優兄は性別が雌ならばたぶんダンゴムシにも優しくするタイプ。妹も例外ではない。だから可愛がってもらっていたし、藤倉君のことも、好きな人ができたと真っ先に相談していた。

 しかし今までは直接的な関わりがなかったので、相談も身のないものだった。

 でも、今日は違う。わたしは本気だった。

 本気で藤倉君を落とすために、付き合うために、むちゃくちゃ真面目に相談をしたい。
有村尚
有村尚
優兄ちゃん、恋愛相談のって
 続いて部屋から出てきた兄の胸ぐらを掴み、息を荒げて言ったわたしの頭をぽんぽん、と叩いて優兄はにっこり笑って返す。
有村優
尚。ちょっと待ってね。大事な彼女を駅まで送ってくるから
有村尚
有村尚
は、早く、じんそくに願う
有村優
わかったよ。なるべく早く戻るね
 優兄は女遊びで忙しいようだった。しかし、わたしの方も今日はとてつもなく強い気持ちで、相談にのってもらうことを欲している。自分の部屋でそわそわしながら帰りを待った。

有村尚
有村尚
お兄ちゃん、おかえり。そうだ……
 優兄が戻ってきて、すぐにバタバタと廊下を走って迎えにいった。しかし、そのタイミングで玄関が開いてもうひとりの兄、ようが帰宅した。
有村陽
なんだよ、尚、大騒ぎして……
 優兄ちゃんと双子の兄弟である陽兄ちゃんはモテない。顔やスタイルは大して違わないのに、全くモテない。陽気でいいお兄ちゃんではあるけれど、今日は正直用はなかった。
有村尚
有村尚
陽兄には、相談はないんだ
有村陽
オイ! どーいうことだよ! 優には言えて、俺には言えないっていうのかよ! 聞き捨てならねえ!
 わたしが無視して優兄の部屋に入ると陽兄は何故か一緒になってドカドカ入ってきた。
有村優
尚、今日はえらい勢いだね。どうしたの?
有村尚
有村尚
あのね、藤倉君と、話したの
 わたしは優兄に、今日あった事件について話した。藤倉君の言った言葉、あった出来事をなるべく細かに伝えた。

 話し終わると優兄は黙って考え込んでいたけれど、ベッドで寝転んで一緒になって聞いていた陽兄が、盛大に歪んだ声をあげた。
有村陽
俺はそいつ、好きじゃねえなぁ……

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