第8話

ニセ彼女、誕生-1
747
2022/05/01 23:00
 作戦はだいたい固まった。話し込んでしまってあまり睡眠がとれなかったけれど、どうせ今夜は興奮して眠れなかっただろう。

 鉄は熱いうちに打て。ということで、わたしは翌日すぐに動くことになった。

 寝不足なのか緊張なのか、ドキドキで頭をぼうっとさせながら藤倉君のいる隣の教室へと赴いた。
有村尚
有村尚
藤倉君
 隣の教室を訪ねると、藤倉君はどこにいるかすぐにわかった。そこに女子の人だかりができていたからだ。しかし、何かのギャグのように女の子の壁に隠され埋まっていて姿はよく見えなかった。周囲にきゃいきゃいと黄色い音声が飛びかい、何が何やらわからない。
有村尚
有村尚
藤倉君
と、もう一度呼んでみたがとても声が届くとは思えない。

 しかし藤倉君はわたしの小さな声を聞きつけて、
藤倉瑛太
藤倉瑛太
有村?
と返事をしてガタッと席を立ち、女子の山の中から出てきてくれた。そのまま背中を押されて教室の外に出る。

 廊下を少し行ったところで藤倉君がはーと息を吐いた。
藤倉瑛太
藤倉瑛太
助かった。最近いつもあんな感じで……
有村尚
有村尚
いつも……
 モテるとは思っていたけれど、よもや毎時間あんな感じとは思っていなかった。生活に色々支障が出そう。
有村尚
有村尚
あれ、みんな何話してるの
藤倉瑛太
藤倉瑛太
誰が何を言ってるのかもわからない……
有村尚
有村尚
大変だね……
藤倉瑛太
藤倉瑛太
うん、でも助かった。何か用?
 無防備に笑顔を向けられてあやうくときめきそうになったけれど、得意の無表情でやり過ごす。彼はわたしが恋愛感情を全く持っていないと思っているから、こんなに親しげにしてくれているのだ。勘違いは無用。

 わたしは第一の作戦を切り出した。
有村尚
有村尚
ちょっとお願いがあって
藤倉瑛太
藤倉瑛太
うん?
有村尚
有村尚
今わたし、学校内ですごくしつこい人に付きまとわれてて……
藤倉瑛太
藤倉瑛太
そうなんだ、大変だな……。でもそれ、俺が何かできること?
有村尚
有村尚
うん。その、お兄ちゃんに相談したら……彼氏がいるって言えば、引き下がるんじゃないかなって言われて……そう言ったんだけど、ちゃんと相手の名前を教えろって言われてしまって……それに、そこらへんの男じゃ、諦めないって言ってるの
藤倉瑛太
藤倉瑛太
えっ……と
有村尚
有村尚
藤倉君が相手なら、絶対諦めると思うの。しばらくフリだけしてもらえないかな
藤倉瑛太
藤倉瑛太
……
 藤倉君が聞きながらみるみる真顔になっていく。わたしの顔を怒ったように見ている。
有村尚
有村尚
あ……試しにちょっと聞いてみただけなんだ……昨日、話してて思ったんだけど……その、もしかしたら……藤倉君としても、ニセの彼女がいたら……
藤倉瑛太
藤倉瑛太
協力する!
有村尚
有村尚
ひぐッ
 急に両手をがしっと握られて変な声が出た。

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