入学式で目立っていた彼はそこから女の子にジロジロ見られ、写真を撮られ、やがて囲まれて追いまわされるのが普通になり、誰と付き合うのかとかばかり注目されて、高校生活をあまり楽しめていなかったようだ。
自己顕示欲が強かったり、そういうのが好きな人はその状況を楽しめたりするのだろうれど、藤倉君の内面はそういうタイプじゃなかったようだ。なんだか辛そうに見える。
すごいなぁとしか思ってなかったので、実情に少しだけショックを受けた。わたしはモテるなんて、良いことだとしか思っていなかった。
そんなことをつらつら話すと藤倉君はなるほどと頷いた。それから落ち着いたのか、もう一度お水を飲んで息を吐く。
これがはたして普通の会話なのかはさて置いて、今藤倉君に近寄ってくるのは彼を好きな女の子ばかりだ。そうじゃない人がむやみに近寄れる状況ではなかった。
やっかみもあるだろうし、そうでなくても異常なモテ方をしている彼とは距離を置いてしまうだろう。近付いてくるのは同性でも、利用しようとする人間が多くなりそうだ。
藤倉君のお兄さんも、藤倉君とは方向性が少し違うけれどなかなかのイケメンらしいと、一時期話題になっていた。でも話題をそちらに振るのはよした。なんだかそれとは関係ない話をしてあげたい。
変えられた自分とは関係のない話題に、藤倉君は少しほどけた顔で「そうなんだ、どんな?」と返してくれた。
ちょっと意地悪そうに笑いながら、からかって言った藤倉君に、妙な普通さを感じてどきりとしてしまう。そうだ、この人は普通の人なんだ。周りがあまりに騒ぐから、よく知らないのに頭の中で、変な風にイメージを固めてしまっていたかもしれない。
藤倉君はうなだれて、また大きな溜め息を吐いた。溜め息だけじゃなくゲロまで吐くくらいだから相当なんだろう。
力なく言った藤倉君は見るからに疲れていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。