第4話

供給過多-3
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2022/04/03 23:00
 入学式で目立っていた彼はそこから女の子にジロジロ見られ、写真を撮られ、やがて囲まれて追いまわされるのが普通になり、誰と付き合うのかとかばかり注目されて、高校生活をあまり楽しめていなかったようだ。

 自己顕示欲が強かったり、そういうのが好きな人はその状況を楽しめたりするのだろうれど、藤倉君の内面はそういうタイプじゃなかったようだ。なんだか辛そうに見える。

 すごいなぁとしか思ってなかったので、実情に少しだけショックを受けた。わたしはモテるなんて、良いことだとしか思っていなかった。
有村尚
有村尚
うちの学校クラス多いし、女子の全員が男子にキャーキャー言ってるばかりの人なわけでもないよ。彼氏持ちの子もいるし、冷静な人も沢山いると思うんだ。ただ、その人達は今ちょっと藤倉君に話しかけにくいだけで……
 そんなことをつらつら話すと藤倉君はなるほどと頷いた。それから落ち着いたのか、もう一度お水を飲んで息を吐く。
藤倉瑛太
藤倉瑛太
なんか俺、久しぶりに人と普通の会話した気がする。ありがとな、有村
 これがはたして普通の会話なのかはさて置いて、今藤倉君に近寄ってくるのは彼を好きな女の子ばかりだ。そうじゃない人がむやみに近寄れる状況ではなかった。
有村尚
有村尚
普通の会話してないって、男子は?
藤倉瑛太
藤倉瑛太
最近なんだかおかしな雰囲気になっているから、ちょっと遠巻きにされてる
有村尚
有村尚
そうなんだ……
 やっかみもあるだろうし、そうでなくても異常なモテ方をしている彼とは距離を置いてしまうだろう。近付いてくるのは同性でも、利用しようとする人間が多くなりそうだ。
藤倉瑛太
藤倉瑛太
男の上級生にも目えつけられるし、本当いいことないよ
有村尚
有村尚
え……それは
藤倉瑛太
藤倉瑛太
いや、今年卒業したうちの兄ちゃんが柔道で全国大会行ってて、だからシメられたりとかはないんだけど
有村尚
有村尚
あぁ、よかったね
 藤倉君のお兄さんも、藤倉君とは方向性が少し違うけれどなかなかのイケメンらしいと、一時期話題になっていた。でも話題をそちらに振るのはよした。なんだかそれとは関係ない話をしてあげたい。
有村尚
有村尚
……わたしにもお兄ちゃんいるんだけど
 変えられた自分とは関係のない話題に、藤倉君は少しほどけた顔で「そうなんだ、どんな?」と返してくれた。
有村尚
有村尚
双子。二卵性だけど、見た目は似てるよ。でも性格は正反対
藤倉瑛太
藤倉瑛太
へえ
有村尚
有村尚
けど、どっちも優しくて、色々教えてくれるんだ
藤倉瑛太
藤倉瑛太
色々?
有村尚
有村尚
うん、困ったことがあったら……お母さんより先に相談したりする
藤倉瑛太
藤倉瑛太
有村、ブラコン?
有村尚
有村尚
そ、んなことないけど……
 ちょっと意地悪そうに笑いながら、からかって言った藤倉君に、妙な普通さを感じてどきりとしてしまう。そうだ、この人は普通の人なんだ。周りがあまりに騒ぐから、よく知らないのに頭の中で、変な風にイメージを固めてしまっていたかもしれない。
藤倉瑛太
藤倉瑛太
あー……なんだかんだ、中学までは平和だったから、まさか高校入ってこんなことになるとは思わなかった……
 藤倉君はうなだれて、また大きな溜め息を吐いた。溜め息だけじゃなくゲロまで吐くくらいだから相当なんだろう。
藤倉瑛太
藤倉瑛太
俺もっとふつーに、男子と馬鹿やって騒ぎたい……
有村尚
有村尚
そうなんだ
藤倉瑛太
藤倉瑛太
ごめんな。こんな話して……聞いてくれてありがとう
 力なく言った藤倉君は見るからに疲れていた。

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