第3話

降谷暁
850
2021/08/25 14:48
私
大丈夫かなぁ…
私は青道高校野球部マネージャー2年。

ただいまマネ室でひとり作業中。

結城先輩世代が引退し、御幸くんがキャプテンとなり新チームが始動してしばらく。
灼熱の中、みんな必死に練習しています。

私もマネージャーとして一生懸命サポートしないと!と日々頑張っているのですが…

今日はとある心配ごとのせいで仕事に手がつかないのです。
御幸一也
御幸一也
あなたこそ大丈夫そ?
私
へっ!?
顔を上げるとそこには御幸くんの姿が!!

驚きすぎて変な声でた。
御幸一也
御幸一也
あ、俺は氷取りに来ただけね
そう言いながら御幸くんは冷凍庫の中を覗いた。

人が入ってきてるのにも気づかないなんて、集中力切れすぎだ。
ちょっと気合い入れ直さなきゃ。
私
誰か怪我とかしたの??
私すぐ届けるから!!
御幸一也
御幸一也
いや、俺がシート打撃で当てられただけ〜
御幸くんはおしりの辺りに氷をあてがいながら、汗をぬぐっていた。
私
そうなんだ、大丈夫??
御幸一也
御幸一也
大丈夫。それよりさ、、
御幸くんはもう一度冷凍庫の扉を開けて、氷を2セット取り出し、私に手渡した。


御幸一也
御幸一也
降谷の様子、見に行ってくれない?
私
えっ??
『降谷』というワードに変に反応してしまう。

私の心配ごととは、まさに『降谷暁』についてだったからだ。
御幸一也
御幸一也
とりあえず寮の部屋に戻るように指示出した。
様子見てきて
私
うん、わかった…
私は氷を受け取る。

すると御幸くんはニヤッと笑った。
御幸一也
御幸一也
彼女が面倒見てくれた方があいつも嬉しいと思うからさ
えっ、、彼女!?

私は手に持っていた氷をガタガタと落とした。
私
いや、ちょっ、何言ってんの!?
御幸一也
御幸一也
ん?やっぱそういうことなの?
ずっとニヤニヤしてる御幸くん。

私は返す言葉も無く、部屋を出ることにした。
私
もう!いいから早く練習戻って!!
御幸一也
御幸一也
はいはい。
じとっとした視線を背中に浴びながら氷をサッと拾ってマネ室を出る。

御幸くんの指摘通り、私は降谷暁と付き合っている。

でも、このことは誰にも内緒。


私の心配ごとというのは、今日の練習で暁が体調を崩したと聞いたからだ。

暁はブルペンにいて、私はずっとA面とマネ室を往復していて、直接様子を見たわけでなく話を聞いただけだったから、余計に心配だった。

私
早く行かなきゃ!
私は小走りで寮までの道のりを急いだ。

御幸くんにバレてるのは予想外だったけど、
直接会ってケアできるのはありがたい。
心配だったし…
たしか、暁の部屋は2号室。

寮の食堂以外に初めて入るけど、意外とわかりやすい構造。すぐどの部屋かわかってしまう。

ここか…なんかちょっと緊張するな。
私
失礼します…
ドアをゆっくり開けるとそこにはぐたっと座っている暁がいた。
降谷暁
降谷暁
……あなた先輩
力のない声、虚ろな目、全然大丈夫じゃなさそう。
私
多分、軽い熱中症だと思うから。
水分はちゃんととった?スポドリじゃなくて、経口補水液飲まないと…
やっぱ東京の暑さにまだ慣れてないのかな…

最近なんとなく頑張りすぎな気もしてたし。

はぁ、なんでもっと早く彼の限界に気づけなかったかなぁ…
私
あと、アンダーシャツも変えてないでしょ?
着替えどこにあるの??
降谷暁
降谷暁
そこの棚が僕のとこ…
気持ちより先に体が動く。

早く彼を回復させなくてはいけない。

マネージャーとしてそう思うからだろう。
私
とりあえず、このTシャツを……
降谷暁
降谷暁
あなた
ぎゅっ。
これは後ろから抱きつかれてる…?

汗の匂い…そして肌の匂い…?

うん、多分これは半裸の暁に抱きつかれてる。
私
…部活中。
そんな甘えん坊なところも好きなんだけど…

でも、今は先輩としてしっかりしないと。
降谷暁
降谷暁
ごめん。
ごめん、とか言いながら全然離そうとしない。

それどころかどんどん抱きしめる力が強くなってる気がする。
私
心配したよ
降谷暁
降谷暁
うん。
私
体調管理もエースの仕事でしょ!
かっこいいとこ見せてよね…
降谷暁
降谷暁
じゃあ、もう戻る。
A面にあなたいるの?そっち行く。
おいおい、なんでそうなる!

しかも今日君はシートには入らないはずだしね。
私
だーめ、ゆっくり休みな。
私は腕を解いて暁の正面を向いた。

頭をポンポンと撫でる。
私
大丈夫。みんな万全の降谷暁を待ってるから!
降谷暁
降谷暁
うん。
少しだけ穏やかな顔になってくれたかな。

ちょっとだけ安心した。
私
じゃあ、その氷は首元や脇の下に挟んで体冷やすんだよ!
じゃあ、私は練習戻るから。
降谷暁
降谷暁
ありがとう、あなたが来てくれてよかった。
ちゃんと言われると照れるなぁ。

ほんとはもっと一緒にいたいんだけど…

でも、私と君は彼氏彼女である前に、マネージャーと選手だから。
私
ちょっと回復したみたいで良かったよ。
じゃあ、戻るね。
少しだけ後ろ髪ひかれる思いで部屋を出た。

私、ちゃんとマネージャー、できたよね。

一応、暁は無事だったし早く練習に戻ろう。
集中しなきゃ。




その日の夜のこと。

私が帰宅しようとマネ室から出るとブルペンの方からミットの気持ちいい音がした。

さっき練習が終わったばっかだというのに、もう誰かが練習している。

青道野球部のすごいとこだなぁ…

少しブルペンに近づいて見てみると、目を疑う光景だった。
御幸一也
御幸一也
ナイスボール!!
御幸くんの声。

投げてるのはもしかして…
降谷暁
降谷暁
次は縦…
え!?暁投げてない??
ちゃんと休んでって言ったのに!!

私は思わずブルペンの方に近づいた。
いつも通り、豪速球を投げ込む暁。

変わりないように見えるけど。
まぁ、御幸くんが一緒だしやりすぎることはないよね。

元気になったみたいで良かった、帰ろと思った時だった。
御幸一也
御幸一也
おっ、あなたちゃーん。
げっっ…なんでバレたんだろ。

御幸くんの声に反応して、暁もこっちを向いた。

これはもう、帰る方が不自然…

私はブルペンに入った。
私
おつかれさま。降谷くん、大丈夫??
ここは先輩マネージャーとして声をかける。
降谷暁
降谷暁
はい、大丈夫です。
暁もちゃんと部活用の対応だ。

まぁ、御幸くんの前でやってもほぼ意味ないんだろうけど。
私
御幸くん、ほどほどにね。
昼まで体調悪かったんだから
御幸一也
御幸一也
大丈夫。俺がついててそんなヘマしないよ。
私
そうだよね!じゃああとちょっと頑張って!
私はその場を立ち去ろうとすると、スっと長い腕が私の手首を掴んだ。
私
えっ…さとる…?
あっ…。と思った時には遅かった。

頭が混乱する。これはどういう状況…
降谷暁
降谷暁
ありがとう、そばにいてくれて。
その真っ直ぐな言葉に、私の心は大きく揺れた。

マネージャーだとか選手だとかそんな線引きどうでもよくなりそうなぐらい、純粋に彼の支えになれていることが嬉しいと、そう思えた。
私
こっちこそいつもありがとう。
御幸一也
御幸一也
お前ら隠す気無いだろ。
横を見ると呆れたように笑う御幸くんの姿が。

すいません、一瞬忘れてました。
私
あのー、このことはみんなには…
御幸一也
御幸一也
多分言わない。
私
いや、多分ってなに!!
降谷暁
降谷暁
僕は別にバレてもいいんですけど…
私
暁は黙ってて!
もう、どこまでもマイペースなんだから!

御幸くんにバレてしまったことは一旦置いておこう。







野球にひたむきで、でも誰よりも繊細で、実は甘えん坊な未完成なエース様。

誰よりも近くであなたの夢を応援する。

いつまでも君の支えでありたい、そう思ったんだ。


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