第9話

番外編 成宮鳴
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2021/09/06 15:39
教室の端の席でスコアを眺める。
これは私の日課。
稲実のマネージャーになってからというもの、この作業を欠かしたことはなかった。


投手 成宮


最近本当にらしくないわ。
鵜久森に負けてからというもの、鳴を含めチームがどことなくまとまりがない。
1年の夏の敗戦後。鳴は1週間部屋から出てこなかった。その時よりはましだけど、マネージャーとしてどう振る舞うべきか私もすごく悩む時期だ。



様子、見に行ってみようかな…
私は鳴のクラスを訪れた。

神谷カルロス俊樹
神谷カルロス俊樹
お、マネさんじゃん
ちょうどいい所に部員発見。
鳴は見当たらないし、どこにいるか聞いてみよ。
私
鳴どこにいるか知ってる?
神谷カルロス俊樹
神谷カルロス俊樹
そーいや、2時間目ぐらいからいないな
いや、いないなって!今昼休みなんだけど!
私
もう!なんでそんな曖昧なのよ
神谷カルロス俊樹
神谷カルロス俊樹
相変わらず暗い顔してたし、保健室とかに避難してんじゃね
国友監督は学校生活を疎かにするような選手は使わない。
カルロスの言うことがほんとだとしたら、鳴とはいえそれは許されないだろうし、連れ戻さないとな…
私
止めてよ〜
私がため息混じりにそう言うとカルロスは気楽に笑った。
神谷カルロス俊樹
神谷カルロス俊樹
俺が言って聞くと思うか?
頼んだぜ、姫。
私
んー、行ってくるよ
私は保健室へ急いだ。

ちなみになぜ私がカルロスに『姫』だなんて呼ばれているかというと、一応私は成宮鳴の彼女であるからだ。

鳴は投球スタイルやら、そのルックスやらでマスコミから『プリンス』と呼ばれることが多い。

その彼女だから部員が面白がって私のことを『姫』と呼ぶようになった。

主にカルロスが呼んでくる。
私
失礼します
保健室に入ると先生はいなかった。
ベットの方へ近づくと鳴がスヤスヤ寝ていた。


普通カーテンとか閉めるんじゃないの??
とか思いながら私は鳴に近づいた。
そっとカーテンを閉める。

王子様のお昼寝。
そんな言葉が似合ってしまう寝顔に彼女としてはもっと眺めてたいがそうはいかない。
私
鳴…
体を揺らすと鳴はそっと目を開けた。
成宮鳴
成宮鳴
ん…あなた?…なに
眠そうに目をこすっている。
ゆっくり上体を起こすと鳴は伸びをした。

ここまで来たはいいけど、なんて声かけよう…
私
体調悪いの?
成宮鳴
成宮鳴
もう大丈夫だから、あなたは授業戻れよ
踏み込んでくんなとそう線引きをされた気がした。
ここ最近私に対してもずっとそうだ。

でも、私だってここで引き下がる訳にはいかない。
私
あのさ、私じゃ頼りないかな。
成宮鳴
成宮鳴
……
鳴は何も言ってくれなかった。
わかってる、私は確かに選手の気持ちはわかってあげられない。
私
鳴の球は原田先輩がいなくなってしまったら止まってしまうの…?
ずっと下を向いていた鳴が私の目を見た。

その瞳から諦めとか悲しみとか怒りとか、たくさんの思いが感じられて私は切なくなる。
私
樹だって鳴の期待に応えようと必死だし、チームだって変わり始めてる。
もっと周りを見てよ、頼ってよ!!
一方的に話してしまってることはわかってるけど、止まらなかった。

鳴が塞ぎ込むことで今は『投げたくない』と意思表示をしたように、近くで見てた私だって彼に伝えたい思いがあった。
成宮鳴
成宮鳴
あなたにはわかんねぇよ。
鳴の表情はマウンドでの全てを見下すような表情とは真逆だった。

何もかもから逃げるような、負けを認めるかのような目。

そんな目を私に向けないで…
私
投げてる時のあの憎たらしい顔が好きなの。
全てを支配する、成宮鳴のピッチングが私は大好きなの。
私は鳴の肩に手を置いてしっかりと目を見て話す。
とにかく伝わって欲しい…!!
私
でも、今の弱い鳴だって好き。
だからすごく心配なんだ…
私の目から涙がつーと流れた。
ダメだ、絶対泣かないつもりだったのに…
成宮鳴
成宮鳴
あなた…
鳴は私の涙を指で拭ってくれる。
私は涙が止まらなくなってしまった。
私
……ごめん、泣かないつもりだったのに
成宮鳴
成宮鳴
ごめんね。あなたを泣かせたらダメだよな
あぁ…これは私に向けてくれる優しい目。
少しほっとする。
私
ありがと。
成宮鳴
成宮鳴
落ち込んで止まってる暇なんてなかった。
こちらこそありがとう!マネージャー
そう言うと鳴は私のおでこにキスをした。
私
…ひゃっ!!
私の反応を見て鳴はいたずらっぽく笑う。
なんだかすっかり元気になっちゃって
成宮鳴
成宮鳴
このままサボる?
首をかしげるその仕草がまたカッコ可愛い

その誘惑にのってしまいそうになるけど、ダメダメ、私は稲実野球部のマネージャー。
私
ダメです、戻るよ。
成宮鳴
成宮鳴
ちぇーー
なんとかエース様の回復に成功。
これは監督にすら正直褒めていただきたいわ











時は流れ放課後の練習のこと

多田野樹
多田野樹
あなた先輩!
振り返ると樹が走ってこっちに来てた。
私
樹、おつかれさま
多田野樹
多田野樹
鳴さんがなんか、変わったんです。
うん、良かったじゃないか。
でも樹はなんか納得してなさそう。
私
うん、良かったじゃん!
多田野樹
多田野樹
また、何か鳴さんに言いました?
どういう言葉をかけてるんですか!!
なるほどね、樹はほんと勉強熱心だよね。
でも、コツがあるわけでもないしな…
私
正直に自分の気持ちを言い続けること!
鳴の俺様に負けないこと!!
これに限る。
多田野樹
多田野樹
なるほど!頑張ります!
私
あとは、私が『姫』だからかなぁ
冗談混じりにそう言うと樹も笑ってくれた。
多田野樹
多田野樹
僕はどうしようもないじゃないですか!
でも、樹にも鳴の唯一無二になってほしいな
私
そだね(笑)
でもきっと、それは彼らがこの1年で作っていくものだから。

私は1番近くで応援し続けるよ。
成宮鳴
成宮鳴
こらぁ!樹!あなたと喋りすぎ!!
鳴がちょっと遠くから叫んでる。
ほんと元気になったみたいで良かった。


さぁ、今日も練習頑張るぞ!!


日本一の景色、きっと成宮鳴は見せてくれるから。

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