第39話

アドリブ
1,279
2021/07/09 10:30


赤葦side














撮影が始まる









展開としてはあなたが俺に告白して



両想いが判明し結ばれるというもの










清涼飲料水のCMにふさわしい




いかにも青春という感じの内容だ












立ち位置について監督の合図を待つ















縁下力
それじゃあ、花都さんのタイミングで始めていいからね
縁下力
よーい…………アクション…!













初めてのあなたには荷が重いかと



少し心配だった俺の不安は








次の瞬間、跡形もなく吹き飛んだ






































ぐっと距離を詰めて、俺の制服の裾を掴む





















照れながら上目遣いでこちらを見上げ言う






















(なまえ)
あなた
わ、私っ…!
(なまえ)
あなた
先輩のこと…ずっとずっと好きでした…////








まるで本当に告白されているみたいな



そう錯覚する引き込まれる演技だった






















俺があなたの手を握って「俺も」と



そう一言言うように台本には書いてあった







































しかし気づいた時にはあなたは俺の腕の中で









無意識に抱きしめていた







































赤葦京治
赤葦京治
俺も好き…だよ


















自分でも分からないくらい



演技と本心の狭間で












抱きしめる力を強めた






































と、ふわっと背中に柔らかい感触を感じて



ドクンと胸がなる















この俺のアドリブ………いや、



アドリブを口実にした半分セクハラ行為を



あなたは瞬時に受けいれ、対応してくれたのだ

































縁下力
カット!!










夢見心地だった俺は監督の声で一気に現実に引き戻され



それと同時に俺を包む暖かさも離れていった












縁下力
花都あなたさんって言ったよね…?
(なまえ)
あなた
あ、はい
縁下力
君、演技本気でやってみたいとかない?
(なまえ)
あなた
え、演技…ですか…(´▽`;) '`'`









監督はキラキラとした眼差しであなたに話しかけている。




















当の俺は柄にもなく暴走してしまったことを後悔し



でも内心嬉しさも感じていた



















縁下力
赤葦くんもっ!あのアドリブいいね
これでいってみてもいい?
赤葦京治
赤葦京治
あ、はいっ…







ほとんど反射のように返事をして



あなたを見た















監督と楽しそうに話すあなたは



とても可愛くて
















演技でもいいからあの時間がもっと続いて欲しいと心から思った
















あまりにガン見し過ぎていたせいで



あなたと目が合い、気づかれてしまった



















(なまえ)
あなた
ご、ごめん京治くんっ…!
私の演技変じゃなかったかな?!









あんなに素晴らしい演技をしておきながら



眉を下げてそんなことを言うもんだから



フッと少し笑ってしまう








赤葦京治
赤葦京治
全然。すごく良かったと思う
逆に俺も突然あんなことしてごめんね?
困ったでしょ














緩みまくった頬で言って「しまった」と後悔した




これは自分で墓穴をほったようなものだ














(なまえ)
あなた
ちょっとびっくりしたけど…実は…
京治くんがギュッてしてくれた時
なんか緊張ほぐれてほっとしたんだよね







俺にコソッとそう耳打ちすると



照れたように走って逃げていった




























取り残された俺は



耳に残るあなたの声と



こそばゆい息の感覚が忘れられず



しばらく立ち尽くしていた

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