【教室】
月曜日がやってきた。
莉の香はふたたび、髪型を元の編み込みに戻して登校した。
リュックを開けて、教科書を取り出す。
早く一人にさせて欲しかった。
だけど、黄瀬は立ち去ってくれない。
莉の香は手を止めた。
必死で平静を装ってみせる。
けれど。
黄瀬は莉の香をまっすぐに見つめて、問いかけてくる。
莉の香は動揺を隠そうと、何冊かの教科書を両手で揃え、机をトントンと叩く。
だけど、心臓はどくどくと早鐘を打っていた。
黄瀬がハッと息を呑み、言葉を止める。
莉の香はその彼の顔を見て、自分が悲痛な表情をしていると悟った。
そう言って、イヤフォンを取り出しスマホに繋ぎ、耳も塞いでしまう。
もう話しかけるな、のサインだ。
黄瀬は自分の席に戻っていった。
そして莉の香は。
すべてから逃れたい思いで、スマホの音量を上げて音楽を聴き始めたのだった。
* * * * * *
【女子トイレ】
一時限目が終わった休み時間。
トイレの後いつまでも手を洗っている莉の香は、奈々に声をかけられた。
* * * * * *
【保健室】
保健室へ行くと養護教諭は留守のようだ。
莉の香は、勝手にベッドに潜り込んでしまう。
涙がにじんで、莉の香は頭から掛け布団を被った。
泣いたら、この胸の痛みは治まるだろうか。
泣いたら——紫崎への想いを忘れられるだろうか……。
嗚咽を漏らしかけた、その時だった。
廊下から足音が近づいてきて、莉の香は布団の中で身を硬くする。
扉のスライドする音がして、誰かが保健室に入ってくる。
莉の香はじっとして、眠ったふりをしようと体を丸めた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。