第7話

授業よりも大切なのは
6,119
2019/07/14 04:10
【教室】
月曜日がやってきた。
莉の香りのかはふたたび、髪型を元の編み込みに戻して登校した。
黄瀬
黄瀬
はよー、白沢しらさわ
莉の香
莉の香
おはよう、黄瀬くん
黄瀬
黄瀬
どーしたんだよ。
髪下ろすの似合ってたのに
莉の香
莉の香
……別に、なんとなく
リュックを開けて、教科書を取り出す。
早く一人にさせて欲しかった。
だけど、黄瀬きせは立ち去ってくれない。
黄瀬
黄瀬
——紫崎しばさきとなんかあったのか?
莉の香は手を止めた。
莉の香
莉の香
……なんのこと?
必死で平静を装ってみせる。
けれど。
黄瀬
黄瀬
——昨日、街で
お前と紫崎を見かけた
莉の香
莉の香
っ!!
黄瀬
黄瀬
なぁ
黄瀬
黄瀬
……紫崎と付き合ってんのか?
黄瀬は莉の香をまっすぐに見つめて、問いかけてくる。
莉の香
莉の香
まさか
莉の香は動揺を隠そうと、何冊かの教科書を両手で揃え、机をトントンと叩く。
だけど、心臓はどくどくと早鐘を打っていた。
黄瀬
黄瀬
なぁ、ほんとのこと
言ってくれよ、白沢
黄瀬
黄瀬
お前、紫崎に……
黄瀬がハッと息を呑み、言葉を止める。
莉の香はその彼の顔を見て、自分が悲痛な表情をしていると悟った。
莉の香
莉の香
……黄瀬くんが心配する
ことなんて、何もないよ
そう言って、イヤフォンを取り出しスマホに繋ぎ、耳も塞いでしまう。
もう話しかけるな、のサインだ。
黄瀬
黄瀬
……
黄瀬は自分の席に戻っていった。
そして莉の香は。
すべてから逃れたい思いで、スマホの音量を上げて音楽を聴き始めたのだった。
* * * * * *

【女子トイレ】
奈々
奈々
莉のちゃんー、
次の授業、物理室だよ
一時限目が終わった休み時間。
トイレの後いつまでも手を洗っている莉の香は、奈々ななに声をかけられた。
莉の香
莉の香
……うん
奈々
奈々
……?
奈々
奈々
莉のちゃん、今日なんか
ヘンだよね
莉の香
莉の香
……ちょっと気分悪くて。

保健室、行ってくるね
奈々
奈々
う、うん……
* * * * * *

【保健室】
保健室へ行くと養護教諭は留守のようだ。
莉の香は、勝手にベッドに潜り込んでしまう。
莉の香
莉の香
(……)
莉の香
莉の香
(黄瀬くんは、私が先生に
遊ばれたって思ったんだろうか)
莉の香
莉の香
(そんなんじゃないのに)
莉の香
莉の香
(……でも、

ほんとにそう——?)
莉の香
莉の香
(だって、教師と生徒なのに)
莉の香
莉の香
(過去の恋人の代わりに、
デートに誘うなんて——)
莉の香
莉の香
(……ひどいよ)
莉の香
莉の香
(私は……
好きになっちゃったのに)
涙がにじんで、莉の香は頭から掛け布団を被った。
泣いたら、この胸の痛みは治まるだろうか。
泣いたら——紫崎への想いを忘れられるだろうか……。
莉の香
莉の香
う……っ
嗚咽を漏らしかけた、その時だった。
廊下から足音が近づいてきて、莉の香は布団の中で身を硬くする。
莉の香
莉の香
(保健の先生? それとも……)
扉のスライドする音がして、誰かが保健室に入ってくる。
莉の香はじっとして、眠ったふりをしようと体を丸めた。
紫崎
紫崎
白沢……っ!!
莉の香
莉の香
(!!)
莉の香
莉の香
(先生——!?)

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